相続放棄が「できる」とは

被相続人と疎遠であったり、被相続人に借金があったりする場合、相続放棄を検討することがあります。

弁護士として相続放棄の相談をすると「相続放棄できますか?」という質問をよく受けるのですが、この回答は少し悩ましいところがあります。
それというのも、相続放棄はなにをもって「相続放棄できた」と評価すべきか少しわかりにくい問題があるためです。

相続放棄の手続は、期限内に裁判所に対して相続放棄の申述をすることで行います。
申述を裁判所が受理すると受理書が発行され、必要があれば受理証明書を発行してもらうこともできます。
しかし、受理書というのは文字通り「受理」したことを示す書類であり、これをもって相続放棄の効力が確定するわけではありません。

相続放棄は、被相続人の財産を処分するなど、相続人でなければできないような行為をしている場合には行えないわけですが、相続放棄の手続にあたって、裁判所がそうした行為がないかどうか等について詳細な調査を行うわけではありません。
そのため、あくまで「受理」したことだけしか証明してくれないのです。

もし相続放棄の効力を争う人がいる場合、相続放棄の申述をしていたとしても、(元)相続人に対して訴えを起こすということは可能であり、その裁判の中で相続放棄ができているかどうか判断されるということになります。

このように書いていくと、相続放棄の申述にはあまり意味がないのかという疑問が出てくるかもしれませんが、そうではありません。
期限内にきちんと裁判所に申述をしていなければ、相続人となってしまいます。
相続放棄するのであれば、相続放棄の申述をすることがマストであることには変わりないのです。

実際には、裁判所が発行する申述受理書を示すことで、相続放棄がされたものとして取り扱われるのがほとんどのため、基本的には“相続放棄の申述が受理される”=“相続放棄ができた”と考えて差し支えありません。
ただ、厳密にいうと少し違うということを頭の片隅に置いていただければと思います。