個人間の貸し借りがある場合の債務整理

親戚や友人からも借入れを行っている場合の債務整理は悩ましい問題があります。

債務整理を行うことをその親戚や友人に対して打ち明けて了承を得ている場合であれば特段問題になりませんが、知られずに債務整理を行いたい場合にはどういった方法をとるべきかよく考える必要があります。

業者からの借り入れ分だけ任意整理することで解決できるのであれば、それが一番スマートな解決です。

しかし、任意整理は借金の元金自体を減らせるわけではないため、元金だけの支払いになれば3年~5年程度で完済できるだけの収支状況がなければ難しいです。

個人再生、自己破産になると債権者を一律平等に扱わなければいけないため、基本的に親戚や友人だけを特別扱いすることはできません。

もし手続前に親戚や友人に対する借金だけを完済し、その後破産手続をとったとしても、破産管財人により否認権を行使され、破産管財人から当該親戚や友人に直接請求がされることが考えられます。

個人再生の場合も、手続前に親戚や友人にだけ返済した場合はその金額分が清算価値に加算され、返済する額が増えてしまうということになり得ます。
ただ、破産の場合のように否認権行使が現実に行われるわけではないため、結果的に親戚や友人に知られずに済む可能性はあるかもしれません。

もっとも、否認権行使を避ける目的で再生手続開始の申立てをした場合は、民事再生法25条4号により再生手続開始の申立てが棄却されることもあり得ます。
ですので、明確に否認権行使の回避目的で個人再生を選択するということは控えるべきです。

このように、個人間で借入れがある場合の債務整理の相談は弁護士としても悩ましい部分が多いです。
どのような形が最善かは借入れ相手との関係性など個人的な事情によるところが大きいと思いますので、弁護士との間でよく相談するべきでしょう。

管財人や再生委員は誰が選ばれるのか

管財人や再生委員が選任されることが見込まれる事案ですと、多くの方が「それは誰が選ばれるのか」という疑問を持たれます。

一言で言ってしまえば申立先の裁判所を管轄するエリア内の弁護士が選ばれる、という回答となります。

ですので、東京地裁本庁に申し立てた場合は23区内の弁護士が選ばれるということになります。

もっとも、事実上ある程度場所は配慮されているように感じることがあります。

私は元々弁護士法人心の東京法律事務所に所属しており、今は銀座法律事務所に所属しているため、いずれも中央区に事務所があるのですが、過去のほとんどのケースで中央区、千代田区、港区の管財人や再生委員が選任されています。

もちろん、この3区に弁護士が集中しているという事情もあるのですが、練馬区や杉並区などの遠方の事務所の弁護士が選任される可能性はおそらくかなり低いです。

一方で、例えば当法人の町田法律事務所で申立てを行うと、逆に比較的近隣である練馬区や杉並区の事務所の弁護士が選任されるケースが散見されます。

つまり、申立てを行う弁護士の事務所と管財人や再生委員の事務所が遠いよりは近い方が色々と不便がないだろう、という裁判所の考慮が事実上はたらいていると考えられます。

管財人や再生委員が選任される見込みの申立てを行う方は、参考にしていただければと思います。

相続と破産の問題

破産手続をとると一定以上の価値がある財産については原則として処分されることになります。

破産を検討している人の多くは、そうした財産はすでに手放した後ということが多いですし、まだ残っている場合も手放すことを覚悟しているのが普通かと思います。

ところで、ここでいう財産というのは破産手続開始決定時点での財産となります。
破産手続開始決定は、申立後の早い段階で出されるものではありますが(特に東京地裁では1,2週間以内に出されます。)、破産手続の依頼から申立てまでには費用の準備や資料の準備で、ある程度時間がかかるのが通常です。

そうすると、しばしば生じる問題が、破産の準備中に両親等が亡くなってしまい、自身が相続人になるというケースです。

特段相続する財産がないような場合は問題ありませんが、自宅を所有していた場合などは悩ましいところです。
そのまま相続した場合に、財産>負債となるのであれば、そもそも破産する必要はなくなるでしょう。
財産<負債であっても、破産までしなくてよくなるという状況もあると思います。

相続したとしてもどのみち破産を進めるという場合、“どのみち処分されてしまうのであれば他の相続人に財産を譲りたい”という発想もあるかと思います。
しかし、自分は受け取らないという形で遺産分割協議をしてしまうと、自らの財産をみすみす減らしたということで後々否認権行使の対象となり、大きな問題となります。

一方、相続放棄をする場合は否認権講師の対象とならないとされています。
理屈としては、相続放棄は“身分に関する行為”であり、財産権を目的とする行為ではないから、ということになります。

破産準備中に自信が相続人となる事態が生じた場合には、以上を踏まえて検討することが必要です。
相続放棄は期限もありますので、速やかに弁護士に相談するようにしましょう。

破産管財人との面談日程

自己破産の申立後、管財事件となる場合は裁判所から破産管財人候補者が選任されます。

その破産管財人(候補者)と面談を行うことになるのは、おそらくどの裁判所であっても共通ですが、申立てから面談を行うまでの期間については、裁判所ごとに違いがあります。

東京地方裁判所では、申立後数日以内に代理人弁護士が裁判官と電話で面接を行います(即日面接)。
そして、面接を行った翌週の水曜日が破産手続開始決定日となるのが通常です。
破産手続が開始されると、破産管財人はその名のとおり、破産者の財産を管理する権限をもち、他方で責任も負うことになります。

事案を正確に把握していない状況でこうした権限・責任をもつという状況は望ましくないということで、東京地方裁判所では”開始決定までに”管財人と面談を行うことが求められています。

先述のとおり、開始決定は即日面接の翌週水曜日になりますので、もし即日面接を金曜日に行った場合は、翌週の月曜から水曜の3日間しか平日はないことになり、管財人面談のスケジュールはかなりタイトなものになります。

他方で、東京以外の裁判所だと、特に問題がなければ開始決定が先行されて、数週間後に管財人面談を行うということも珍しくありません。
東京では”開始決定までに”面談ということがかなり強調して言われるため、この点の地域差はかなり驚くものがあります。

東京地方裁判所での申立ては、このように申立て直後がかなり慌ただしくなるため、申立てをする本人もその前提で予定を調整する必要があります。

自由財産として残せる金額

個人が自己破産手続を行うと、原則として保有している財産はすべて手放さなければなりませんが、自由財産として認められたものについては、手続後もそのまま保持することができます。

「自由財産として残すことができる金額は99万円まで」とされていますが、細かく見ていくと裁判所ごとにやや運用が異なってきます。

東京地方裁判所の運用だと、99万円までの「現金」を自由財産として残すことができます。
預金は現金と異なるため、あくまで現金になっていることが求められます。
また、東京地方裁判所では基本的に20万円を超える価値があるものを、処分(手放さなければいけない)対象の財産として考えることになるため、20万円以下のものは財産として取り扱われません。
そのため、例えば15万円の預金と99万円の現金があるという場合、前者は財産として扱われないため、いずれについても残すことができる可能性があります。

他方で、裁判所によっては、すべての財産を合計して99万円までであれば残せる、という運用をとっていることがあります。
この場合、先の例だと15万円の預金と99万円の現金を合わせると114万円になってしまうため、99万円を超える15万円分については原則として残すことができないということになります。

ここまでの内容だと、東京地方裁判所の運用が有利だという印象をもたれるかと思います。
ただ、例えば保険の解約返戻金が50万円あり、現金が40万円あるというケースの場合、東京地方裁判所だと20万円を超える財産を自由財産として残すことは事実上難しく、保険は管財人によって処分される可能性が高いです。
しかし、すべての財産を合計して99万円までであれば残せる、という運用をとっている裁判所においては、合計が90万円ということで保険も現金も残せる可能性が高そうです。

このように、裁判所ごとに微妙に、しかし人によっては小さくない違いが出てきますので、事前によく確認することが大事になります。

債権者集会は1回で終わる?

破産手続が長引いてうれしい人はいません。
早く手続きが終わってほしいと思うのが普通であり、手続が終わるタイミングを一区切りとして、心機一転何か始めてみようと考える人も多いです。

破産手続きが開始されると同時に債権者集会の日程も決まります。
債権者集会が1回で終わる場合は、この債権者集会の期日が終わると破産者が行うべきことは事実上すべて終了します。
しかし、1回で終わらず続行となる場合は、数か月後にまた債権者集会が開かれることになり、手続は終了しません。

どういうときに債権者集会が続行になるかというと、破産管財人弁護士の業務が完了していない場合が典型例です。
不動産の売却業務がある場合や、第三者に対する請求権を行使する場合などは、1回目の債権者集会までに間に合わないことも多いです。
また、法人の破産はどうしても管財人の業務量が増えるため、債権者集会が複数回開かれることが多いです。
特に従業員への未払い給与が残っている場合などは、未払賃金立替制度の利用にあたり相当程度時間がかかる傾向にあります。

債権者集会が続行になるかどうかは、債権者集会の期日ぎりぎりまでわからないケースも多いです。
これについては基本的に申し立てる側がどうこうできるものではないため、そういうものだと考えるしかありません。
1回で終わると決めつけて、債権者集会後に諸々予定を組んでしまうと、直前になって予定が狂ってしまうこともありますので注意が必要でしょう。

法人破産の相談のタイミング

株式会社などの法人の破産について弁護士に相談するタイミングは、個人の破産以上に難しいかもしれません。

経営者は破産という事態にならないようあらゆる手を講じることが多いでしょうし、万策尽きた後に破産の相談を行うという方も少なくありません。

ただ、万策尽きて会社の財産も完全になくなってからの相談となってしまうと、破産手続自体が費用面で難しくなってしまうことがあります。

個人の場合は、破産を決意した後に借入先への返済を止めて、それまで返済に充てていた金銭を破産手続の費用に毎月充てていく、といったことも可能ですが、法人の場合は破産と決まれば事業自体がそこで止まるのが通常です。
すると、破産手続を行うと決めた後に法人財産が増えることは見込めないため、そのときに残っている法人財産をもって法人破産の手続費用を賄わなければならないのです。

法人代表者個人の財産で法人破産の費用を賄うという方法も考えられなくはないですが、法人の破産分は法人の財産で、代表者個人分の破産は代表者個人の財産で手続きを行うのが原則であり、法人から個人、あるいは個人から法人へ資金を融通するのは様々な問題が生じ得ます。

経営を立て直すために最後まで力を尽くすという気持ちはよくわかるところであり、それは決して責められるものではありません。
しかし、他方において、最終的に破産となってしまう場合には一定の資産が残っていないと手続そのものが難しいという事実もあるため、この点は非常に悩ましい問題です。

相続放棄が「できる」とは

被相続人と疎遠であったり、被相続人に借金があったりする場合、相続放棄を検討することがあります。

弁護士として相続放棄の相談をすると「相続放棄できますか?」という質問をよく受けるのですが、この回答は少し悩ましいところがあります。
それというのも、相続放棄はなにをもって「相続放棄できた」と評価すべきか少しわかりにくい問題があるためです。

相続放棄の手続は、期限内に裁判所に対して相続放棄の申述をすることで行います。
申述を裁判所が受理すると受理書が発行され、必要があれば受理証明書を発行してもらうこともできます。
しかし、受理書というのは文字通り「受理」したことを示す書類であり、これをもって相続放棄の効力が確定するわけではありません。

相続放棄は、被相続人の財産を処分するなど、相続人でなければできないような行為をしている場合には行えないわけですが、相続放棄の手続にあたって、裁判所がそうした行為がないかどうか等について詳細な調査を行うわけではありません。
そのため、あくまで「受理」したことだけしか証明してくれないのです。

もし相続放棄の効力を争う人がいる場合、相続放棄の申述をしていたとしても、(元)相続人に対して訴えを起こすということは可能であり、その裁判の中で相続放棄ができているかどうか判断されるということになります。

このように書いていくと、相続放棄の申述にはあまり意味がないのかという疑問が出てくるかもしれませんが、そうではありません。
期限内にきちんと裁判所に申述をしていなければ、相続人となってしまいます。
相続放棄するのであれば、相続放棄の申述をすることがマストであることには変わりないのです。

実際には、裁判所が発行する申述受理書を示すことで、相続放棄がされたものとして取り扱われるのがほとんどのため、基本的には“相続放棄の申述が受理される”=“相続放棄ができた”と考えて差し支えありません。
ただ、厳密にいうと少し違うということを頭の片隅に置いていただければと思います。

地元の弁護士に依頼すべきかどうか

弁護士を選ぶ際、地元の弁護士に依頼するか都市部等の遠方の弁護士に依頼するかは一つ悩みどころかもしれません。

どちらが正解と一概にいうことはできないですが、案件によって考え方も変わってきます。

例えば、裁判を行う前提の依頼で、訴訟を起こす裁判所が地元の裁判所になると見込まれる場合には、地元の弁護士に依頼した方が出廷費等を抑えられる可能性はあるでしょう。

自己破産の手続きを行う場合なども同様の考え方になります。
特に破産管財事件になることが見込まれる場合は、管財人面談に赴くこともあるでしょうから、遠方の弁護士に依頼すると出廷費・出張費がかさむ可能性があります。

他方で、個人再生の手続は裁判所で行うものの、裁判所に出向くことは稀ですので、遠方の弁護士に依頼した場合と地元の弁護士に依頼した場合とで費用の差は少ないかもしれません。
ただし個人再生委員が選任されるとやはり出張費が生じます。

なお、自己破産や個人再生などの債務整理の依頼は、弁護士と直接面談する必要がありますので、少なくとも一度はその法律事務所に行くことが必要となります。

一方、裁判にならずに解決できると見込まれる場合等は、法律事務所の所在はあまり関係ないこともあります。

交通事故の依頼などは、相談自体も電話で完結できることが多く、また、裁判外の交渉で解決できるケースが多いので、地元の弁護士に限定することなく弁護士を探してもよいでしょう。

個人事業主の個人再生

個人事業主であっても個人再生することができます。

しかし、給与収入を得ている方と比べると複雑な手続きになるケースが多いのも事実です。

複雑になる理由の1つ目は収入の問題です。

給与所得者は多少のばらつきはあれど、毎月一定の安定した収入がありますので、返済していく見込みがあるのかどうか、その判断は行いやすいです。

他方で、個人事業主の場合は収入にばらつきがあることも多いので返済の見込みが立つのかどうか、慎重に判断する必要があります。

また、税金の観点からできる限り経費を多くつけて、所得を抑えて申告している個人事業主の方は事実上多いと思います。

そうすると、確定申告書上はほとんど個人で自由に使えるお金がないということがあり、その場合に「本当はもっと自由に使えるお金がある」という主張をしても認められないおそれがあります。

2つ目の理由は清算価値の問題です。

事業形態によっては多くの備品、機材を使っていたり、多数の在庫商品を抱えているということがあり得ますが、これらは清算価値として財産に計上する必要があります。

事業を大きく行っていればいるほど、清算価値も大きくなる傾向がありますので、個人再生をしても返済額が大きくなる可能性があります。

3つ目の理由は買掛金の問題です。

買掛金も支払いを後払いにしているという点では借金と同じ扱いになります。

この点色々と悩ましい点があるのですが、買掛先への影響を最小限にするのであれば、少なくとも当面の間掛ではなくて現金払いにする等して、買掛金が生じないようにするのが望ましいです。

そうした対応が難しい場合には、買掛金をどうするかについて要検討が必要になります。

個人再生についての相談をご希望の方は、弁護士法人心へお気軽にご相談ください。

会社の財産と会社代表者個人の財産

個人経営の会社だったり従業員数名程度の会社だったりすると、会社の財産と代表者個人の財産の境界があいまいであることも珍しくありません。

普通に経営を続けている状況下では、そのようなあいまいな状態でもいいのかもしれませんが、破産などの法的手続きをとるる場合は、法律上会社の財産、会社代表者個人の財産がそれぞれどの範囲なのかを考える必要があります。
例えば、会社と会社代表者がそれぞれ破産手続をとる場合、会社の破産にかかる費用は会社の財産から、代表者の破産にかかる費用は代表者個人の財産から捻出するのが原則になるため、会社と代表者それぞれの財産の範囲をきちんと意識する必要が出てきます。
自分では個人の財産だと考えていても、弁護士(破産管財人)や裁判官が会社の財産だと判断すれば、想定と異なる方向に話が進んでしまうこともあり得ます。

お金の管理を銀行預金によって行っているというケースは多いかと思います。
そして、銀行口座は会社名義、個人名義と作ることができるわけですが、会社名義の口座に入っている以上そのお金は会社の財産と考えるのが原則ですし、逆に個人の口座に入っているお金は個人の財産と考えるのが通常です。

将来的に法的手続きをとることを念頭に経営を行うことは普通ないと思いますが、もし経営に不安を感じ、場合によっては将来法的手続きをとることがあるかもしれないという考えに至ったのであれば、その時点からでも会社の財産と個人の財産の区別を意識しておくとよいかもしれません。

個人事業主が破産する場合の売掛金や報酬金の問題

自己破産する場合に、事業を辞める場合、あるいは辞めざるを得ない場合はそれほど問題にならないですが、破産手続後も個人事業主の立場を継続するという場合は、申立後の報酬金や売掛金がどうなるのかに注意を払う必要があります。

自己破産をすると、破産手続開始決定時にその人が保有している財産は基本的に処分されることになります。

すると、破産手続開始決定時に有している売掛金や報酬金についても、処分されてしまうのが原則ということになります。

例えば、4月末締め5月末払いの報酬債権がある場合に、5月半ばに破産手続開始決定が出ると、その時点で5月末に支払われる報酬債権という財産を持っていることになるため、受け取ることができないというのが原則になるのです。

この点は給与所得者と個人事業主の大きな違いです。

個人事業主といっても実態は様々ですので、実質的に給与所得者と同じような業務形態であるという場合は、給与所得者と同じ扱いを受けられることもありますが、最終的には裁判所が判断する事柄になりますので、個人事業主である以上は破産手続開始決定時の売掛金や報酬債権を処分されてしまう可能性があるということで考えておく必要があります。

場合によっては、売掛金や報酬債権を処分されても生活が維持できる状況を作ったうえで申し立てに移るということも考える必要があります。

自己破産についての相談は弁護士法人心で承っていますので、お気軽にご相談ください。

代表者が破産せずに会社だけ破産することはできるのか

代表者個人だけが破産して会社をそのままにできるか、という問題について以前記載しましたが、反対に会社だけが破産して代表者個人が破産せずに済ませられるのかという問題もあります。

中小企業ですと、一般的に会社が借入れをする際に代表者個人が保証人になっていることが多いです。

そうすると、会社が破産した場合には保証人である代表者個人に請求がなされますので、破産せずにそれに対応できるのであれば…ということになりますが、現実的にはなかなか難しいかと思います。

自宅不動産があるなどどうしても破産を避けたいという場合には、会社は破産、代表者個人は個人再生という手段も考えられます。

他方で、代表者個人が一切保証人になっていないというケースもまれにあります。

そうすると、代表者個人には債務がない以上、個人については破産しなくてもよさそうです。

ただし、会社のみで破産申立てをすると、代表者個人は破産しないのかと裁判所から確認がされます。

裁判所としては、会社から代表者に資産を移したりしているのでは、という懸念があるためです。

また、中小企業の場合、個人の財産と会社の財産が多少なりとも混同してしまっていることが多く、その調査の観点からも個人について併せて破産申立てをすることを事実上推奨してきます。

このような考えが根底にあるため、代表者個人が破産せずに会社だけを破産するということはできないわけではないですが、細かな調査が行われ、慎重な判断がされることになります。

詳しくは弁護士にご相談いただいたほうがよいと思います。お気軽にお問い合わせください。

免責審尋や債権者集会に出頭する意義

東京地方裁判所で破産の申し立てを行うと、同時廃止手続の場合は免責審尋、管財手続の場合は債権者集会が、手続の最後に行われます。

この手続きは裁判所(中目黒庁舎)で行われ、申し立てた本人も出頭する必要があります。

裁判所へ行くということで緊張されるかもしれませんが、実際のところ免責審尋ではでは氏名等を確認されるくらいで、債権者集会に至っては発言をする機会すらないことも珍しくありません。

では、この手続きに出頭する意義はあるのか、という疑問が生じるかもしれません。

実際、他の裁判所では出頭不要としているところもありますし、東京地方裁判所でもコロナ禍の間は基本的に出頭不要で手続きを進めていましたので、制度上出頭を不要とすることは不可能ではないのかもしれません。

しかし、現在のところ、東京地方裁判所は出頭を求める運用となっています。

破産法上、破産手続に破産者が協力しない場合、免責不許可事由に該当するのですが、免責審尋や債権者集会へ出頭を求めることで、破産者の手続への協力姿勢を判断できるというのも、出頭を求める1つの理由といえます。

ですので、債権者集会や免責審尋を過度に恐れる必要はないですが、だからといって軽んじてしまうようなこと(例えば期日を忘れてしまい出頭できなくなってしまうなど)は絶対に避ける必要があります。

会社代表者が個人の債務だけを自己破産できるのか

会社経営をしている方から、会社についてはそのままで、個人の分だけを自己破産したいという相談を受けることがあります。

しかし、実際にはそれは困難とされています。

個人分だけの破産申し立てをしたとしても、裁判所から法人(会社)についても破産の申し立てをするように促されることになるでしょう。

それはなぜなのかというと、理由は複数あります。

まず、会社の借入れについて会社代表者が保証人になっているケースが多く、保証人である会社代表者が自己破産すると会社に対しても一括請求がされてしまい、事実上法人の経営も立ち行かなくなるという理由があります。

次に、会社代表者の財産と会社の財産は明確に分かれていないことも多いことから、どちらか一方だけを破産させるというのは適切でないという理由があります。

また、自己破産すると、会社と会社代表者との委任契約が解除されることになってしまうため、少なくとも一時的に会社の代表者が不在という状況が生じてしまい、そのまま会社が清算処理をしないまま放置されてしまうおそれがあるという理由もあります。

このような事情があるため、個人と会社を切り分けて破産手続を行えるケースというのは極めて稀になるでしょう。

債務整理と仕送りの問題

ご両親や親族に仕送りを行うことは、一般的・道義的に褒められるべきものであり、非難されるものではないでしょう。

しかし、債務整理を行おうという人が仕送りを行っていると問題が生じ得ます。

例えば、借金を返せなくなっている人が無償で物を人にあげているケースを想像してもらうと良いかと思いますが、この人の行為は不適切だと多くの人が考えるでしょう(人にあげるのではなく、借入先に返済することを優先すべきだ、ということですね。)。

そして、仕送りという行為も形式的にはこれと同じだということになってしまうのです。

もちろん、赤の他人に挙げている場合と違い、親子間では扶養義務があるため、その範囲内と言えればよいのですが、この判断はなかなか悩ましいところがあります。

例えば、親が施設に入居していたり長期間入院しているなどの状態にあり、その施設代や医療費を自分が支払うしかない、という状況であればそれはやむを得ない支出という方向になるでしょう。

他方で、年金だけだと生活が苦しいから仕送りをしている、という程度だと扶養義務の履行とは言いにくく、不適切な贈与だと考えられてしまうかもしれません。

不適切だと判断されてしまうと、自己破産手続の場合は破産管財人から仕送りを受けた人に対し、お金を戻すように連絡がされます。

仕送りを受けている人は自己破産するという状況にあることを知らないことも多く、また自己破産を申し立てる側としても知られたくないと考えていることが多いので、この点は悩ましい問題です。

債務整理手続が完了するまでは仕送りを止めておくことが一番無難ではありますが、事前によく弁護士に相談しておくことが大事になります。

給与所得者再生について

個人再生についてネットなどで調べてみると、小規模個人再生と給与所得者等再生の2つがあることがわかると思います。

前者の手続が一定以上の債権者が反対に回ると不成立になってしまう一方で、後者の場合には債権者の賛否にかかわらず成立させることができるというメリットがあるのですが、実際に利用される割合は圧倒的に前者が多いです。

その理由としては、まず前者の手続をとってもほとんどの債権者が反対しないということがあります。

そして、後者の手続をとると可処分所得の2年分以上の金額を返済する必要があるため、トータルの返済額が増えてしまう可能性があるというのが後者の手続があまり利用されない理由です。

可処分所得の金額は、その人の収入、家族構成(扶養に入っている家族が何人いるか等)、居住地域、家賃負担の有無等をもとにして決まりますので、一人暮らしの場合やご結婚されていても共働きの場合などは可処分所得が高くなる傾向にあります。

現代では夫婦ともにフルタイムで働くことも多いと思いますので、可処分所得が高くなってしまうことが多いというわけです。

また、お子さんがいらっしゃる場合父母どちらの扶養に入っているかも影響してきます。

実際には父母双方の収入でお子さんにかかる生活費を支出されることが多いかと思いますが、形式的にはどちらかの扶養に入っているはずですので、お子さんが個人再生を申し立てる人の扶養に入っていれば可処分所得が低くなり、入っていなければ可処分所得が高くなるということに形式的にはなっていきます。

このような次第なので、小規模個人再生で進めることが難しいという事情がある場合(債権者の反対が予想される場合等)、また、給与所得者等再生で進めても不利にならない場合(可処分所得の2年分が高額にならない場合等)に例外的に給与所得者等再生が選ばれるというのが実態です。

このあたりの判断は弁護士、とりわけ個人再生の手続に慣れた弁護士でないと難しいところだと思いますので、よく相談して手続を決めることをおすすめいたします。

自己破産した方がいいのか個人再生した方がいいのか

債務整理の相談に来られる方で、方針を明確に決めていない方は少なくありません。

任意整理は無理だけど、自己破産がいいのか個人再生がいいのかわからないという方も多いです。

免責不許可事由があったり、残したい財産がある場合は個人再生にした方がいいということになりますが、特にそういった事情がない場合はどうすべきなのでしょうか。

実際のところ、答えがあるわけではないので、それぞれのメリットデメリットを比較して決めていただくことになると思います。

自己破産の方が経済的メリットが大きいため、一般的に弁護士は自己破産を勧めることが多い印象はあります。

なお、ある程度収入があったり手元に財産が残っている方の場合、自己破産が認められないのではないか(個人再生や任意整理をするように言われるのではないか)と心配される方もいらっしゃいますが、よほどのことがない限りその心配は必要ありません。

ただ、東京地裁では経験がないものの、過去に地方の支部の裁判所では、自己破産の申立てをした際に個人再生や任意整理の方が適当ではないかという趣旨のことを言われたことがあります。

個人再生や任意整理で支払っていくことができないときでなければ自己破産ができない、といったルールはないため、この発言が妥当なのかは疑問がありますが、現にこのように考える裁判所も存在する以上、申し立てる裁判所によってはこの点も多少気にした方がよいかもしれません。

事業譲渡による債務整理

会社経営をしている方の債務整理の手段として、事業譲渡があります。

事業譲渡することによって会社を破産させずに済むという面があったり、会社の破産になると費用が高額になってしまうため、会社は事業譲渡して個人だけ破産する、といった形で事業譲渡を検討されることが多いようです。

事業譲渡したうえで個人だけが破産するという場合、適切な対価で譲渡しているかどうかは注意が必要な点です。

もっと高額で譲渡できたにもかかわらず安い値段で引き渡してしまった、と見られてしまうと、裁判所からその差額分を補填するように求められないとも限りません。

しかし、適切な対価がいくらなのかを判断するのはなかなか悩ましい問題です。

決算書上負債が資産を上回っているからといってお金を出して買う人がいないかというとそうとも限りませんし、逆にある程度資産がある状態でも買い手がつかないこともあるかもしれません。

この辺りはその業界の事情、例えば新規で事業を起こすことの難易度がどの程度高いのか等にもよってきます。

新たに事業所を開く場合に高額なコストがかかる場合、多少負債を抱えている会社であっても、買収する方が新たに事業所を開くより低廉であれば、お金を出す価値がある(その事業に価値がある)といったことですね。

こうした業界事情については裁判所も弁護士も必ずしも詳しいわけではないので、最も手堅いやり方は相見積もりをとって一番高い金額をつけてくれたところに売るというやり方です。

これであれば、ある程度その事業の客観的な評価が担保されることになりますので、裁判所としても譲渡金額が妥当なものだととらえやすいでしょう。

再生計画変更の申立て

個人再生手続で無事認可決定を受けて返済していたけれども、また返済が苦しくなってしまった、という状況になってしまうと、現実的にとり得る手段は少ないです。

多くの場合、そのまま支払えなくなってしまい再生計画は取り消され、自己破産手続に移行することになるでしょう。

しかし、自己破産を避けたいがために個人再生を選んでいる方も多いでしょうから、何とかして個人再生を継続できないかと考えるのは当然です。

こうした再生計画どおりの返済が途中で苦しくなってしまった方のための手続に、再生計画変更というものがあります。

その名のとおり、再生計画を途中で変更するのですが、具体的には最大2年間返済計画を延長することができます。

例えば、当初の再生計画が最長の5年返済で計画されていたとして、すでに2年間返済していたとすると、残りの返済期間は3年になるわけですが、これを5年(つまりトータルで7年)まで伸ばすことができるのです。

これだけ見るとかなり有効な救済策にも見えますが、実際にはほとんど使われていない手続です。

その理由としては、①再生計画変更が認められるまでの間(事案にもよりますがおおむね半年程度)は従来の計画どおりに返済を続けなければならないこと、②弁護士に依頼して行う場合、①の従来通りの返済に加えて弁護士費用の準備もしなければならないこと、などがあるようです。

つまり、もう来月から返済ができない、という状況まで来てしまってからではなかなか難しい手続だということになります。

例えば、向こう1年間の収入がこれまでよりも下がることがあらかじめわかっているなど、前もって収支の計算ができる方であれば、早め早めに対応することで再生計画変更の手続を行うことができる可能性があります。