相続放棄は弁護士に依頼すべきか

相続放棄は、弁護士へ依頼せずに自分自身で行うことも比較的多いです。
実際のところ、依頼した方がいいのか自分で手続した方がいいのか検討してみたいと思います。

相続放棄は、手続のほとんどが“必要な書類を集めて提出する”ということにつきます。
期限を徒過しているかどうか疑義がある場合等は別にして、一般的なケースでは相続放棄を行う理由についても最低限の記載で足ります。
提出後、裁判所から問い合わせを受けることもありますが、特に難しい応対が求められるわけではありません。
そのため、一般的なケースを前提とすると、自分自身で必要書類をそろえられるかどうかが弁護士に依頼すべきかどうかのポイントになってきそうです。

相続放棄に必要な書類は主に戸籍類で、どのような戸籍が必要になるかは被相続人との続柄によっても変わってきます。
インターネットで調べる等すれば、必要な戸籍が何かを確認すること自体はそれほど難しくないと思います。

では、必要な戸籍がわかったとして、次に戸籍謄本をどう取得するのか、ということですが、本籍地のある役所に対して取得手続をとることになります。
役所がお住まいの地域から近ければ直接役所へ行って取得するということもできるでしょうが、遠方の役所なので郵送で取得せざるを得ない場合も少なくないでしょう。
郵送の場合、請求してから実際に戸籍が送られてくるまでに数日から1週間程度かかることになるのですが、もし求めている戸籍と違うものが来てしまったり、あるいは送られてきたものだけでは不十分だったりした場合は、再度請求することになってしまいますので、また時間を要することになってしまいます。
原戸籍を取得する場合など、通常あまり取得することのない戸籍を取得する場合は、一度で過不足なく請求を行うのが案外難しいです。

また、本籍地を変更したことがある場合や、関係者の本籍地がそれぞれ異なっている場合など、複数の役所に対して請求する必要がある場合も少なくありません。
その場合は当然それぞれの役所に対して請求を行っていく必要があります。

特に大変になってくるのは、被相続人との関係が疎遠である場合など、本籍地が不明な場合です。
その場合は自分の戸籍を足掛かりにして本籍地をたどっていき、必要な戸籍を収集することになります。
この場合、取得した戸籍を読み取って次に請求する役所を確認し、そこで取得した戸籍を読み取ってさらに次の役所を確認し…ということを繰り返すことになります。
戸籍を読み取るのも慣れていないと案外難しいものです。
そして、請求先が多くなるほど必然的に時間がかかってくることになるため、3か月の申述期限が迫ってくることになってしまいます。

以上を踏まえると、親族間の交流があって本籍地の確認が容易なのかどうか、という点が申述までに要する時間的に一番重要になってきそうです。
容易なのであれば戸籍収集にあたって多少てこずったとしても、自分自身で3か月の申述期間内に行い得ると思います。
他方で自身の戸籍から辿っていかないといけない場合などは、スケジュールがタイトになってくるため、迅速かつ正確に戸籍を収集していく必要があります。

あとは、相続放棄に自分がどれだけ時間をさけるかの問題でしょう。
戸籍を収集するというのは通常誰にとっても慣れない行為ですので、諸々確認しながら慎重に進める手続きになるはずです。
万一失敗してしまうと、場合によっては莫大な負債を抱えることになってしまうかもしれないというストレスもあります。
普段の生活を送る中で、このような相続放棄の手続に時間を割くことができるのか、それとも多少費用こそかかるかもしれませんが、ストレスなく専門家に依頼するのか、という比較になるかと思います。

相続放棄が「できる」とは

被相続人と疎遠であったり、被相続人に借金があったりする場合、相続放棄を検討することがあります。

弁護士として相続放棄の相談をすると「相続放棄できますか?」という質問をよく受けるのですが、この回答は少し悩ましいところがあります。
それというのも、相続放棄はなにをもって「相続放棄できた」と評価すべきか少しわかりにくい問題があるためです。

相続放棄の手続は、期限内に裁判所に対して相続放棄の申述をすることで行います。
申述を裁判所が受理すると受理書が発行され、必要があれば受理証明書を発行してもらうこともできます。
しかし、受理書というのは文字通り「受理」したことを示す書類であり、これをもって相続放棄の効力が確定するわけではありません。

相続放棄は、被相続人の財産を処分するなど、相続人でなければできないような行為をしている場合には行えないわけですが、相続放棄の手続にあたって、裁判所がそうした行為がないかどうか等について詳細な調査を行うわけではありません。
そのため、あくまで「受理」したことだけしか証明してくれないのです。

もし相続放棄の効力を争う人がいる場合、相続放棄の申述をしていたとしても、(元)相続人に対して訴えを起こすということは可能であり、その裁判の中で相続放棄ができているかどうか判断されるということになります。

このように書いていくと、相続放棄の申述にはあまり意味がないのかという疑問が出てくるかもしれませんが、そうではありません。
期限内にきちんと裁判所に申述をしていなければ、相続人となってしまいます。
相続放棄するのであれば、相続放棄の申述をすることがマストであることには変わりないのです。

実際には、裁判所が発行する申述受理書を示すことで、相続放棄がされたものとして取り扱われるのがほとんどのため、基本的には“相続放棄の申述が受理される”=“相続放棄ができた”と考えて差し支えありません。
ただ、厳密にいうと少し違うということを頭の片隅に置いていただければと思います。

遺言書を書いたら相続人が揉めることになる?

遺言書を書いた方がいいのか書かない方がいいのか、どちらの方が相続人は揉めないのだろうか、という観点で悩まれることがあるかもしれません。

人間関係の問題ですので、弁護士の立場からもどちらが絶対にいいということは言えないものの、基本的には遺言書を書いておいた方がスムーズに相続手続きを行えるといえるかと思います。

遺言書がない場合、相続人は遺産分割協議を行って、誰が何を相続するのかを決めていかなければなりません。

相続人間の仲が良いか悪いかというのもありますが、そもそも相続人同士であまり関わりがなくなっていたりはしないでしょうか。

険悪な関係の人と協議するのも困難ですが、疎遠な人と協議をするというのもストレスがかかるものです。

遺言書を書いた場合であっても、遺留分の問題などが生じる可能性は否定できないものの、基本的に遺言書の内容に沿って相続手続を進めていけばいいということになるので、相続人からすれば遺言書がない場合と比べてやりやすい場合が多いかと思います。

遺言書の内容で相続人が揉めるのではないか、と危惧されている方は、ぜひ遺言書がない場合に揉めずに済むのかという観点から考えていただくとよいかと思います。

生前疎遠だった人の相続人になったとき

生前は特にかかわることもなく疎遠だった親戚が亡くなり、実は自分が相続人だったというご相談を受けることがあります。

典型的なのは、おじ・おばが亡くなったケースで、そのおじ・おばに子がおらず、両親も亡くなっており、おじ・おばのきょうだいにあたる自分の親もすでに亡くなっているようなパターンです。

このような状況になっている場合、おじ・おばとの交流がすでに途絶えてしまっていることは珍しくないかと思います。

相続人になっていることが分かったとき、どのような選択肢があるでしょうか。

亡くなった方に財産がなく、むしろ借金があるようだ、ということであれば相続放棄を検討することが多いでしょう。

ところでこの相続放棄、借金を相続しないために利用するイメージが強いかもしれませんが、それ以外の場面で利用することもあります。

今回のケースのように、生前交流がなくなっていた場合だと、財産の有無や額にかかわらず相続をしたくないという方もいますし、遠方の不動産が相続財産にある場合だと扱いに困るため関わりたくないという方も少なくありません。

また、相続放棄しない場合には他の相続人(この状況ですとやはり関わりがなくなっていることも多いかと思います)とやりとりをしていく必要がありますが、それをしたくないというニーズも多いです。

こうした観点から、相続したらプラスの財産があるかもしれないという状況においても、弁護士に相続放棄の依頼をする方は珍しくありません。