誠実義務、真実義務

倫理というのは簡単そうで難しいですね。

「弁護士倫理を遵守する」といっても、倫理という言葉は条文の規定以上に抽象的です。

日本弁護士連合会で「弁護士職務基本規程」というものが定められ、弁護士倫理の一応の目安となって運用されています。

ルールが定められているから何も問題ないじゃないかといえば、そう簡単でもない問題があります。

刑事弁護人として、接見をした際、被疑者(被告人)から「先生だから話すけど」ということで、有罪認定の有力な証言を聞くことになった、「でも物的証拠はないだろうから無罪という主張を続けたい」という意向を示している、といった場合等が典型事例として問題提起されます。

弁護士は守秘義務を負っており、情報を安易に口外してよいわけではありません。守秘義務を負っているからこそ話していただいている、という側面も当然あるはずで、「先生だから話すけど」と言って話してもらった内容を外に出してしまうことは重大な裏切りとなってしまいます。

他方で、弁護士職務基本規程には、真実義務であるとか、誠実義務といった義務があるともされています。つまり、真実有罪だというのならその事実を追求するべきではないのか、という方向からの問題です。

この典型事例では、弁護士はどうすべきか。

有罪の証言を聞いたから罪を認めます、とすることは、無罪を望む被疑者(被告人)との関係で誠実に弁護活動しているとはいえず、誠実義務や守秘義務に反することになるでしょう。

他方、証言により有罪であろうことがわかっているのに無罪を主張することは真実義務に反してしまうのではないか、ということになります。

色々な視点から様々な考え方ができると思います。「真犯人のくせに罪を認めないのはけしからん」とか、「証明するのは検察側だし、被告人には黙秘権はあるわけだから」とか。

息子と娘、どちらかしか助けられない、どうするか、というほどには究極の選択ではないかもしれませんが、正解は出せないけれど選択を迫られる場面ではあるはずで、やはり難しいと感じます。

「沈黙が正しい答え」とは言い切れない問題だなと思います。