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レンタカー会社の運行供用者責任(否定例)
今日の東京の最高気温は22度超え。コート要らずの暖かさが嬉しく、目的地まで20分ほど歩いてみたら、花粉の猛威にさらされ、鼻水とくしゃみが止まりません。
東京マラソンのランナーのみなさま、暑さと花粉の中、おつかれさまでした。
さて、前回ご紹介したレンタカー会社の運行供用者責任を肯定した判例のように、レンタカー会社は、経済的な利益を得ており、借受人とは貸渡契約を締結し、特定の期限までに返却することが合意されているので、運行利益も運行支配もあると考えられます。
しかし、約束の期限までに返却しない、借受人がレンタカー会社に無断で第三者に使用させた等の事情によっては、レンタカー会社の運行支配は失われたとみるべきケースもあります。
レンタカー会社の運行供用責任を否定した裁判例(平成19年10月16日名古屋地方裁判所判決)をご紹介します。
<請求内容>
交通事故によって後遺障害を負った被害者とその母(Xら)が、加害車(以下「本件車両」という。)の運転手(Y1)に対して民法709条に基づき、本件車両の所有者であるレンタカー会社(Y2)と本件車両をY1に貸し渡した農業協同組合(Y3)に対して自動車損害賠償保障法3条に基づき損害賠償請求した。
<事案の概要>
Y4はY3との間で自動車共済契約を締結しており、被共済車両が交通事故を起こしたため、同契約の車両諸費用保障特約に基づき、Y3に対し代車の提供を要求した。
車両諸費用補償特約とは、被共済自動車に発生した損害に対して車両共済金を支払う場合に、その損害にともなって発生した被共済自動車の代車を借り入れた費用等を保障するものであって、本来、被共済者が代車を手配し、その費用について共済金を支払うものとされているが、Y3はY4の便宜を図るため、Y3が借主となってY2との間で本件車両の貸渡契約を締結し、30日間を貸渡期間として本件車両がY2からY4に提供された。
Y4は「若い衆(個人的に小遣い銭を与えてY4の仕事の補助者として使っている者のこと)」であるAに対し本件車両を貸し渡し、AはY4の仕事場に出入りし手伝いをしていたY1に対し、仲間と初詣に行くのに使用することを許可して貸し渡した。
しかし、Y1は、本件車両の中で寝過ごし、初詣に行くことができず、その後Y4の仕事場に顔を出しづらくなったこと、本件車両を足代わり、宿代わりに使用できることから、本件車両を返還せず、Y4、Aのいずれの許可も得ずに使用し続け、連絡も一切取らなかった。
貸渡期間の経過後も、Y2に本件車両が返還されなかったため、Y2とY3はY4に対し本件車両の返還を求めるとともに、本件車両を回収するため、AとY4の住所周辺を捜索したり、Y4に架電したり、警察ヘ相談したが、本件車両を回収できないまま貸渡期限から24日経過した日に本件事故が発生した。
<Y2の責任に関する裁判所の判断>
次の事情を挙示し、本件事故当時、Y2は、もはや本件車両の運行を指示、制御し得る立場を失っており、その運行利益も帰属してなかったため、Y2の運行供用者責任はないとした。
① 本件車両の貸渡契約は、自動車共済契約の車両諸費用保障特約に基づくもので、同特約の約款から貸渡期間は30日間と定められており、貸渡期間の延長は想定されない契約であって、本件事故が、本件車両の返還期限から24日経過後であったことから、本件事故当時、本件車両の貸渡契約が明示にも黙示にも延長継続されていたとは認められない
② また、Aが本件車両の使用をY1に許可した際、明確な取り決めはないものの2、3日で返還することが前提となっていたが、Y1はAにもY4にも無断で本件車両の使用を継続し、連絡も一切取らず、その後は本件車両の返還意思を放棄していたことが認められ、Y1は、Y4及びAに対し、本件車両の返還を請求する他に直接Y1と連絡をとり返還を求める方法がなかったこと
③ Y1は、返還期日後、警察に相談に行きY4及びAの自宅周辺の捜索をするなど本件車両の回収のための努力をなしていること
④ そして、本件車両が返還されないことにより契約上Y2はY3から延滞料を請求することが可能であったが、実際には車両諸費用保障特約の上限額の請求しかしなかったこと
<Y3の責任に関する裁判所の判断>
次の事情を挙示し、本件事故当時、Y3は、もはや本件車両の運行を指示、制御し得る立場を失っており、その運行利益も帰属してなかったため、Y3の運行供用者責任はないとした。
① 本件車両の貸渡契約は、自動車共済契約の車両諸費用保障特約に基づくもので、同特約の約款から貸渡期間は30日間と定められており、貸渡期間の延長は想定されない契約であって、本件事故が、本件車両の返還期限から24日経過後であったことから、本件事故当時、Y3からY4に対する車両諸費用保障特約に基づく本件車両の貸渡契約も明示にも黙示にも延長継続されていたと考えることはできない
② また、Aが本件車両の使用をY1に許可した際、明確な取り決めはないものの2、3日で返還することが前提となっていたが、Y1はAにもY4にも無断で本件車両の使用を継続し、連絡も一切取らず、その後は本件車両の返還意思を放棄していたことが認められ、Y3は、Y4及びAに対し、本件車両の返還を請求する他に直接Y1と連絡をとり返還を求める方法がなかったこと
③ Y3は、返還期日後、警察に相談に行きY4及びAの自宅周辺の捜索をするなど本件車両の回収のための努力をなしていること
④ そして、本件車両の返還がなされないことにより、Y3はY1に対し当初の賃貸料より多い額を支払うことになったこと