レンタカー会社の運行供用者責任(否定例)

今日の東京の最高気温は22度超え。コート要らずの暖かさが嬉しく、目的地まで20分ほど歩いてみたら、花粉の猛威にさらされ、鼻水とくしゃみが止まりません。
東京マラソンのランナーのみなさま、暑さと花粉の中、おつかれさまでした。

さて、前回ご紹介したレンタカー会社の運行供用者責任を肯定した判例のように、レンタカー会社は、経済的な利益を得ており、借受人とは貸渡契約を締結し、特定の期限までに返却することが合意されているので、運行利益も運行支配もあると考えられます。

しかし、約束の期限までに返却しない、借受人がレンタカー会社に無断で第三者に使用させた等の事情によっては、レンタカー会社の運行支配は失われたとみるべきケースもあります。

レンタカー会社の運行供用責任を否定した裁判例(平成19年10月16日名古屋地方裁判所判決)をご紹介します。

<請求内容>
交通事故によって後遺障害を負った被害者とその母(Xら)が、加害車(以下「本件車両」という。)の運転手(Y1)に対して民法709条に基づき、本件車両の所有者であるレンタカー会社(Y2)と本件車両をY1に貸し渡した農業協同組合(Y3)に対して自動車損害賠償保障法3条に基づき損害賠償請求した。

<事案の概要>
Y4はY3との間で自動車共済契約を締結しており、被共済車両が交通事故を起こしたため、同契約の車両諸費用保障特約に基づき、Y3に対し代車の提供を要求した。
車両諸費用補償特約とは、被共済自動車に発生した損害に対して車両共済金を支払う場合に、その損害にともなって発生した被共済自動車の代車を借り入れた費用等を保障するものであって、本来、被共済者が代車を手配し、その費用について共済金を支払うものとされているが、Y3はY4の便宜を図るため、Y3が借主となってY2との間で本件車両の貸渡契約を締結し、30日間を貸渡期間として本件車両がY2からY4に提供された。
Y4は「若い衆(個人的に小遣い銭を与えてY4の仕事の補助者として使っている者のこと)」であるAに対し本件車両を貸し渡し、AはY4の仕事場に出入りし手伝いをしていたY1に対し、仲間と初詣に行くのに使用することを許可して貸し渡した。
しかし、Y1は、本件車両の中で寝過ごし、初詣に行くことができず、その後Y4の仕事場に顔を出しづらくなったこと、本件車両を足代わり、宿代わりに使用できることから、本件車両を返還せず、Y4、Aのいずれの許可も得ずに使用し続け、連絡も一切取らなかった。
貸渡期間の経過後も、Y2に本件車両が返還されなかったため、Y2とY3はY4に対し本件車両の返還を求めるとともに、本件車両を回収するため、AとY4の住所周辺を捜索したり、Y4に架電したり、警察ヘ相談したが、本件車両を回収できないまま貸渡期限から24日経過した日に本件事故が発生した。

<Y2の責任に関する裁判所の判断>
次の事情を挙示し、本件事故当時、Y2は、もはや本件車両の運行を指示、制御し得る立場を失っており、その運行利益も帰属してなかったため、Y2の運行供用者責任はないとした。
① 本件車両の貸渡契約は、自動車共済契約の車両諸費用保障特約に基づくもので、同特約の約款から貸渡期間は30日間と定められており、貸渡期間の延長は想定されない契約であって、本件事故が、本件車両の返還期限から24日経過後であったことから、本件事故当時、本件車両の貸渡契約が明示にも黙示にも延長継続されていたとは認められない
② また、Aが本件車両の使用をY1に許可した際、明確な取り決めはないものの2、3日で返還することが前提となっていたが、Y1はAにもY4にも無断で本件車両の使用を継続し、連絡も一切取らず、その後は本件車両の返還意思を放棄していたことが認められ、Y1は、Y4及びAに対し、本件車両の返還を請求する他に直接Y1と連絡をとり返還を求める方法がなかったこと
③ Y1は、返還期日後、警察に相談に行きY4及びAの自宅周辺の捜索をするなど本件車両の回収のための努力をなしていること
④ そして、本件車両が返還されないことにより契約上Y2はY3から延滞料を請求することが可能であったが、実際には車両諸費用保障特約の上限額の請求しかしなかったこと

<Y3の責任に関する裁判所の判断>
次の事情を挙示し、本件事故当時、Y3は、もはや本件車両の運行を指示、制御し得る立場を失っており、その運行利益も帰属してなかったため、Y3の運行供用者責任はないとした。
① 本件車両の貸渡契約は、自動車共済契約の車両諸費用保障特約に基づくもので、同特約の約款から貸渡期間は30日間と定められており、貸渡期間の延長は想定されない契約であって、本件事故が、本件車両の返還期限から24日経過後であったことから、本件事故当時、Y3からY4に対する車両諸費用保障特約に基づく本件車両の貸渡契約も明示にも黙示にも延長継続されていたと考えることはできない
② また、Aが本件車両の使用をY1に許可した際、明確な取り決めはないものの2、3日で返還することが前提となっていたが、Y1はAにもY4にも無断で本件車両の使用を継続し、連絡も一切取らず、その後は本件車両の返還意思を放棄していたことが認められ、Y3は、Y4及びAに対し、本件車両の返還を請求する他に直接Y1と連絡をとり返還を求める方法がなかったこと
③ Y3は、返還期日後、警察に相談に行きY4及びAの自宅周辺の捜索をするなど本件車両の回収のための努力をなしていること
④ そして、本件車両の返還がなされないことにより、Y3はY1に対し当初の賃貸料より多い額を支払うことになったこと

レンタカー会社の運行供用者責任(肯定例)

まだまだ寒い東京ですが、花粉が飛散し始め、鼻がムズムズします。

さて、レンタカー会社から借り受けたレンタカーを運転中、過失運転により歩行者を負傷させた場合、被害者は、レンタカーの運転者に対して損害賠償請求できるだけでなく、レンタカー会社に対しても自動車損害賠償保障法に基づく損害賠償請求が可能です。
レンタカー会社は、原則として、自動車損害賠償保障法3条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたると考えられるからです。

リーディングケースとされる判例(昭和46年11月9日最高裁判所第3小法廷判決)をご紹介します。
Y2が、レンタカー会社であるY1から、Y1所有車を借り受けて運転中、Y1の過失(車の整備不良)とY2の過失(前方注視義務違反等)により、歩行者に同車を衝突させ、死亡させた事故につき、歩行者の遺族がY1とY2を被告として損害賠償を求めました。

本件判決は、次の事実関係を列挙した上で、本件事故当時、Y1は、本件自動車に対する運行支配および運行利益を有していたということができると判示し、自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任を認めました。
・Y1は、その所有自動車についての利用申込を受けた場合、免許証により、申込者が小型四輪自動車以上の運転免許を有し、原則として免許取得後六月経過した者であることを確認し、さらに一時停止の励行、変速装置、方向指示器の操作その他交通法規全般について同乗審査をなし、かかる利用資格を有する申込者と自動車貸渡契約を締結したうえで自動車の利用を許すものであること
・利用者は、借受けに際し届け出た予定利用時間、予定走行区域の遵守および走行中生じた不測の事故については大小を問わずY2に連絡するよう義務づけられていること
・料金は、走行粁、使用時間、借受自動車の種類によつて定められ、本件自動車と同種のセドリツク六二年式の場合、使用時間二四時間・制限走行粁三〇〇粁で六〇〇〇円に上ること、燃料代、修理代等は利用者負担とされていること
・使用時間は概ね短期で、料金表上は四八時間が限度とされていること
・Y2は、Y1から以上の約旨のほか、同人が前記利用資格に達していなかつたため、特に、制限走行粁三〇〇粁、山道、坂道を走行しないことを条件にY1所有の本件自動車を借り受けたものであること
・本件事故はY2が本件自動車を運転中惹起したものであること等

車を駐停車させて荷降ろし中の事故(もう1つの最高裁判決)

全国的に寒い日が続く中、東京法律事務所の執務室の空調が壊れてしまい、修理が終わるまで室内でもコートが必須でした。

さて、前回、車を駐停車させて荷降ろし中の事故について、結論が異なる2つの最高裁判決をご紹介しましたが、両判決の判断が分かれた理由が分かりにくいため、今回は、もう1つ、最高裁判決をご紹介します。
なお、この判決は、前回ご紹介した昭和63年6月16日最高裁判所第1小法廷判決(最高裁判所裁判集民事154号177頁)と同時に言い渡されました。

昭和63年6月16日最高裁判所第1小法廷判決( 最高裁判所民事判例集42巻5号414頁)は、(一)T事務所前の道路上において、X運転のV車(軽四輪貨物自動車)とT事務所の従業員A運転のフォークリフト(以下「本件フォークリフト」という。)のフォークとが衝突し、Xは脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を負って両眼が失明した(以下「本件事故」という。)、(二)Yは、大型貨物自動車(以下「本件車両」という。)を所有して運送業を営んでいたところ、依頼された角材を本件車両に積載してT事務所前に到着し、これをT構内の作業所に搬入しようとしたが、本件車両を右作業所前の空地に駐車することができなかったので、Bと打ち合わせて、これをTとは反対側の道路端に駐車させ、本件フォークリフトで角材をTの作業所内に搬入することとした、(三)このため、歩車道の区別のない幅員四・五メートルの道路の有効幅員は約二・五メートルに狭められた、(四)Yにおいて本件車両の荷台上でその側方を通過する車両の有無を監視する態勢をとり、Bにおいて本件フォークリフトを運転して、荷降ろし作業を開始した、(五)三回目の荷降ろしのため、Bが、長さ約一・五メートルのフォークが路上に突き出る位置まで進めて本件フォークリフトを前記空地に一旦停止させ、本件車両の荷台の位置に合わせるためにYの指示に従いフォークの高さを調整していたところ、本件車両に気をとられて前方注視をせずその左側を通過しようとしたXの運転するV車と前記のとおり衝突した、(六)本件車両は、木材運搬に使用する貨物自動車で、その荷台にはフォークリフトのフォークを挿入するため多くの枕木(角材)が装置されており、フォークリフトによる荷降ろし作業が当然予定されている車両である、という事故について、「法(※自動車損害賠償保障法)三条の損害賠償責任は、自動車の「運行によって」、すなわち、自動車を「当該装置の用い方に従い用いることによって」(法二条二項)他人の生命又は身体を害したときに生じるものであるところ、前記の事実関係によれば、本件事故は、Xが、V車を運転中、道路上にフォーク部分を進入させた状態で進路前方左側の空地に停止中の本件フォークリフトのフォーク部分に被害車を衝突させて発生したのであるから、本件車両がフォークリフトによる荷降ろし作業のための枕木を荷台に装着した木材運搬用の貨物自動車であり、Yが、荷降ろし作業終了後直ちに出発する予定で、一般車両の通行する道路に本件車両を駐車させ、本件フォークリフトの運転者森と共同して荷降ろし作業を開始したものであり、本件事故発生当時、本件フォークリフトが三回目の荷降ろしのため本件車両に向かう途中であったなどの前記の事情があっても、本件事故は、本件車両を当該装置の用い方に従い用いることによって発生したものとはいえない」と判示しました。

同判決について、本件事故の特徴は、Xの前方不注視により、X運転のV車が本件車両とは別の車両であるフォークリフトに衝突したものであって、本件車両に衝突したものではなく、本件車両の常軌を逸した動静がV車を運転していたXに対して衝突にも比すべき影響を及ぼしたものでもない点にあるとして、本件事故態様に照らすと、運行と本件事故との相当因果関係を認めることはかなり困難ではなかろうかと評されています(最高裁判所判例解説民事篇昭和63年度(11)参照)。

車を駐停車させて荷物の積み降ろし中の事故

東京の紅葉は見頃を迎え、出勤途中の銀杏並木も黄金色に染まっているので、毎朝、つい足を止めてしまいます。

さて、自動車損害賠償保障法は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」、「運行」とは「自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。」と定めています。

そこで、 自賠責保険会社に被害者請求(16条請求)や加害者請求(15条請求)をする場合、車両を走行させず、駐停車させて荷物の積み降ろし中に事故が起きた場合、「運行によって」にあたるかが問題となることがあります。

例えば、昭和56年11月13日最高裁判所第3小法廷判決は、AとBが集荷した古電柱を積載したトラックを材料置場に駐車させたまま昼食を済ませ、約1時間後に古電柱の荷降ろし作業を開始したところ、その1本が荷台から落下し、Vがその下敷きとなって死亡した事故について、「運行によって」生じたものとはいえないと判示し、X1(電々公社等から電話架設工事等の発注を受けている会社)、X2(X1の下請会社より古電柱の集荷作業を請け負った会社)、X3(X2の孫請け会社であり、AとBを古電柱の積み降ろし作業員として雇い入れた)のY自賠責保険会社に対する保険金請求を認めませんでした。

他方で、昭和63年6月16日最高裁判所第1小法廷判決(最高裁判所裁判集民事154号177頁)は、(1)製作所敷地内を通行中のⅤ(当時6歳)が、材木の下敷きになって死亡した。(2)同材木は、Aがトラックの荷台上に積載して同製作所に運搬してき8本の一部であって、同製作所の経営者であるXが、その荷降ろし作業をするため、フォークリフトを同トラックの側面に横付けし、フォークリフトを用いてこれを荷台上から反対側面下の材木置場に突き落としたものである。(3)本件トラックは、木材運搬専用車であって、その荷台には木材の安定緊縛用の鉄製支柱のほかフォークリフトのフォーク挿入用の枕木等が装置されており、その構造上フォークリフトによる荷降ろし作業が予定されている車両であるところ、本件事故は、Xが前記フォークリフトのフォークを枕木により生じている材木と荷台との間隙に挿入したうえ、フォークリフトを操作した結果、発生したものである、という事故について、このような事実関係のもとにおいては、枕木が装置されている荷台は、本件トラックの固有の装置といえ、また、本件荷降ろし作業は、直接的にはフォークリフトを用いてされたものであるにせよ、併せて右荷台をその目的に従って使用することによって行われたものというべきであるから、本件事故は、本件トラックを「当該装置の用い方に従い用いること」によって生じたとして、XのY自賠責保険会社に対する保険金請求を認めました。

このように、最高裁判決は、荷物の積み降ろし作業であることから、一律に「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」にあたらないと判断しておらず、積み降ろしにあたって、当該自動車の固有装置と評価される装置を使用されているか、事故はこの装置を使用することによって発生したといえるかを検討し、前者の判決については、荷台が「当該装置」に当たるとしても、ダンプカー等と異なり、荷台を「操作」するものでなく、また、駐車させたまま約1時間経過後の荷降ろし作業中の事故であり、駐車前後の走行との連続性に欠けるといった事情が重視されたものと評されています(最高裁判所判例解説民事篇昭和63年度(11)参照)。

運行供用者責任

10月、東京は、ようやく長く暑い夏が終わり、朝晩は肌寒く感じます。

さて、交通事故の加害者(A)が、勤務先の会社(B社)の営業車を運転し、仕事中に事故を起こして被害者を死傷させた場合、加害者(A)だけでなく、会社(B社)も、被害者に対して治療費、慰謝料等の賠償金を支払うべき義務を負います。
なぜなら、加害者(A)と会社(B社)は、どちらも、自動車損害賠償保障法に基づき、運行供用者責任を負うからです。

「運行供用者」とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」のことです。
「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、事故を起こした車について「運行支配」と「運行利益」が帰属する者、すなわち、その車の運行を指示・制御すべき立場にあって、その車を運行させることで利益を得る人のことです。

B社は、車の所有者として車を管理・使用し、従業員のAに運行させることによって業務上の利益を得ているため、運行供用者責任を負うのです。

車の所有者(C)が、友人(D)に、無償で車を貸した場合も同様です。
CがDの車を運転中に事故を起こして被害者を死傷させた場合も、Dは、原則として、運行供用者責任を負います。
車を無償で貸す人と借りる人は、通常、密接な人間関係があり、借主が車の返還を約束しているので、貸主は、貸している間も運行支配を失わないと考えられるためです。

他方、Eが所有する車が何者かに盗まれ、何者かがEの車で事故を起こした場合、Eは、運行支配を失っているので、原則として、運行供用責任を負いません。

「運行支配」や「運行利益」は、抽象的な概念なので、実際には、日頃の車の運転状況や管理状況、車の所有者と運転者との関係性、運行支配を失うに至った事情等を考慮して、運行供用者に当たるか否かを決することになります。

電動キックボード

令和5年7月1日に改正道路交通法が施行されて以来、東京の街中で、シェアリングサービスを利用した緑と白の車体の電動キックボードを頻繁に見かけるようになりました。

電動キックボードは、改正前は、原動機付自転車・普通自動二輪車に分類されていましたが、改正後は、次の条件を満たす場合、「特定小型原動機付自転車」として、新たな交通ルールが適用されることになりました(道路交通法法2条1項10号、道路交通法施行規則1条の2の2)。
①車体の大きさは、長さ190㎝・幅60㎝を越えないこと
②原動機として、定格出力が0.6㎾以下の電動機を用いること
③20km/hを超える速度を出すことができないこと
④オートマチック・トランスミッションその他のクラッチの操作を要しない機構がとられていること
⑤最高速度表示灯が備えられている等、道路運送車両の保安基準に適合するものであること

以下は、「特定小型原動機付自転車」を運転する場合の主な交通ルールです。
16歳以上であれば、運転免許が不要です。
ヘルメットの着用は努力義務です。
自賠責保険(共済)に加入する義務があります。
ナンバープレートの取り付けが必要です。
飲酒運転・二人乗りは禁止です。
車道・自転車専用通行帯の通行が可能です。
二段階右折をしなければなりません。

電動キックボードが増加しても、電動キックボード事故が増えないといいですね。

自転車の交通違反に「青切符」による取締り

こんにちは、弁護士の田中です。

自転車事故が増加する中、令和6年5月17日、自転車の交通違反について反則金を科す「青切符」制度を定める改正道路交通法が成立しました。

これまで、自転車の交通違反については、刑事罰の対象となる酒酔い運転やあおり運転等、特に悪質な刑事罰の対象となる酒違反のみ、「赤切符」を交付して取り締まってきました。

しかし、自転車の交通違反が減ることはなく、実効性のある取締りが求められていたことを背景に、改正法は、16歳以上を対象として、信号無視、一時不停止、右側通行等の通行区分違反、スマホの使用、傘さし、二人乗り等、比較的軽微な違反について「青切符」制度を導入したのです。

「青切符」制度は、1968年に自動車の運転者に対して導入された「交通反則通告制度」のことです。反則金は、行政罰であって刑事罰ではありません。交通違反について「青切符」を交付された場合、反則金を期限までに納付すると、刑事罰を免れるという制度です。

反則金は、今後、政令で決まりますが、5000円から1万2000円程度になる見通しです。

また、実際の取締りについては、警察官の警告に従わずに違反行為を続けた場合や、事故につながりかねない交通の危険を生じさせた場合に「青切符」を交付することが想定されているようです。

改正法の施行は、2年以内なので、少し先になりますが、自転車の交通事故が減少するか、要注目です。

自賠法16条1項による損害賠償額の支払基準の拘束力

交通事故の被害者は、加害車両を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険者(自賠責保険会社)に対して、直接、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができます(自動車損害賠償保障法16条1項)。

自賠責保険会社は、自賠法16条1項の規定により被害者に対して保険金を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従ってこれを支払わなければならず(同法16条の3第1項)、支払基準として、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」が定められています(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)。

では、裁判所は、被害者が自賠法16条1項に基づいて自賠責保険会社に対して損害賠償額の支払いを求める訴訟において、自賠法16条の3第1項の支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払いを命じることができるのでしょうか。

すなわち、自賠法16条の3第1項の支払基準は、保険会社・共済組合を拘束するのみならず、被害者も拘束するのでしょうか。

この点が争われたケースを、以下、ご紹介します。

被害者は、自賠責保険会社から上記の支払基準による損害賠償額の支払いを受けた後、支払基準による支払額を上回る損害賠償額が存在するとして、自賠責保険会社を被告として、自賠法16条1項に基づいて損害賠償額の残額の支払いを求める訴訟を提起しました。

被告(自賠責保険会社)は、裁判所は支払基準によることなく損害賠償額を算定することはできず、自賠責保険会社は、支払基準に従って本件事故の損害賠償額を算定して被害者に対する支払を行ったから、既に損害賠償額全額を支払済みであると主張しました。

最高裁判所平成18年3月30日第1小法廷判決は、次のように、支払基準は保険会社以外の者を拘束する旨を規定したものではないと述べました。

「法16条の3第1項の規定内容からすると、同項が、保険会社に、支払基準に従って保険金等を支払うことを義務付けた規定であることは明らかであって、支払基準が保険会社以外の者も拘束する旨を規定したものと解することはできない。支払基準は、保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合に従うべき基準にすぎないものというべきである。そうすると、保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合の支払額と訴訟で支払を命じられる額が異なることがあるが、保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合には、公平かつ迅速な保険金等の支払の確保という見地から、保険会社に対して支払基準に従って支払うことを義務付けることに合理性があるのに対し、訴訟においては、当事者の主張立証に基づく個別的な事案ごとの結果の妥当性が尊重されるべきであるから、上記のように額に違いがあるとしても、そのことが不合理であるとはいえない。したがって、法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において、裁判所は、法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができるというべきである。」

多くのケースでは、支払基準による損害賠償額が保険金額の限度を超過するため、訴訟提起することは考えにくいですが、自賠法16条1項による請求の結果、保険金額の限度を下回る損害賠償額の支払いを受けた被害者の方は、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

物的損害賠償請求権の消滅時効の起算点

物的損害賠償請求権と人的損害賠償請求権の時効期間が異なるために注意すべきケースとして、実際に裁判で争われ、最高裁判所が下級審(第1審と控訴審)の判断を覆した例をご紹介します。

本件の事案の概要は、次のとおりです。
・平成27年2月26日、X運転のバイクとY運転の乗用車とが接触する交通事故が発生し、Xのバイクが損傷し、Xは、頚椎捻挫等の傷害を負いました。
・Xは、遅くとも平成27年8月13日までに、本件事故の相手がYであることを知りました。
・Xは、通院による治療を受け、平成27年8月25日に、症状固定と診断されました。
・平成30年8月14日、XがYに対して人的損害及び物的損害の賠償を求めて訴訟提起しました。

訴訟提起すると時効の完成が猶予されるため、本件のように物的損害と人的損害を合わせて賠償請求した場合に、平成30年8月14日までに物的損害賠償請求権の時効が完成していたのか、すなわち、物的損害賠償請求権の時効の起算点である「損害及び加害者を知ったとき」をいつとみるべきかが、争点となりました。

Yは、本件事故の発生日(平成27年2月26日)から3年(平成30年2月26日)が経過したので、物的損害に関する損害賠償債務は、時効により消滅している、と主張しました。

Xは、人的損害及び物的損害を一つの損害として損害賠償請求をしているので、症状固定日(平成27年8月25日)が「損害及び加害者を知ったとき」であり、物的損害賠償請求権についても消滅時効は完成していない、と主張しました。

第1審(神戸地方裁判所令和元年11月14日判決)と控訴審(大阪高等裁判所令和2年6月4日判決)は、症状固定日(平成27年8月25日)を起算点とすべきであり、本件訴訟が提起された日(平成30年8月14日)までに消滅時効は完成していなかったとして、Yの主張を退けました。

しかし、最高裁判所(令和3年11月2日第3小法廷判決)は、控訴審の判断は是認することができないとして、物的損害賠償請求権の消滅時効は完成していると判示しました。

以下、同判決を引用します。

  「(1) 交通事故の被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効は、同一の交通事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても、被害者が、加害者に加え、上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行するものと解するのが相当である。

 なぜなら、車両損傷を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは、これらが同一の交通事故により同一の被害者に生じたものであっても、被侵害利益を異にするものであり、車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は、身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とは異なる請求権であると解されるのであって、そうである以上、上記各損害賠償請求権の短期消滅時効の起算点は、請求権ごとに各別に判断されるべきものであるからである。

 (2) これを本件についてみると、前記事実関係等によれば、被上告人(X)は、本件事故の日に少なくとも弁護士費用に係る損害を除く本件車両損傷を理由とする損害を知ったものと認められ、遅くとも平成27年8月13日までに本件事故の加害者を知ったものであるから、本件訴訟提起時には、被上告人(X)の上告人(Y)に対する不法行為に基づく上記損害の賠償請求権の短期消滅時効が完成していたことが明らかである。」

事故からすでに長期間が経過している方は、早めに弁護士にご相談ください。

東京マラソン2024

今年もまた、東京法律事務所に、「東京マラソン2024 交通規制のお知らせ」が届きました。

開催当日は、マラソンコース及び沿道において長時間にわたり交通規制が実施されるため、ご協力ください、というお知らせです。

私の自宅周辺もマラソンコースとなっているので、毎年、自宅にも届きます。

宛名は「東京マラソンコース沿道の皆様」となっており、よく見ると、事務所に届いたものと、少し内容が異なります。「新宿区版」、「千代田区版」、「中央区版」など、8種類のお知らせをエリアごとに分けて配布しているようです。

事務所がお休みの週末は、日頃の運動不足を解消するために、自宅から職場までジョギングで通勤することがありますが、そのルートが東京マラソンコースと重なっているため、知らずにうっかり出かけると、あちこちで迂回することになり、予定が狂ってしまいます。今年は3月3日(日)、覚えておかなければ。

ところで、日頃、多数の交通事故による損害賠償請求事件を担当しているためか、ジョギングや歩行中に、どのような場所でどのような事故が発生しやすいか、警戒ポイントは心得ています。

通勤経路となる東京駅前の横断歩道はとても広く、多数の歩行者が横断しますが、黄色信号で交差点に進入したタクシーが、赤信号に変わっても(歩行者用信号は青色になっているのに)、何台も交差点内を通り過ぎていきます。

道路交通法上は歩行者優先といっても、譲る・待つ、という対策が身を守る最善の方法です。

2023年12月3日に開催された福岡国際マラソンでは、大会車両が競技者に接触して負傷させた事故が発生しました。

17回目となる東京マラソン2024は、3万8000人のランナーが参加するとのことです。

事故などが発生することなく、安全に行われますように。

交通事故による損害賠償請求権の消滅時効

交通事故の被害者が、長期間、加害者に対して損害賠償請求しないままでいると、損害賠償請求する権利が時効によって消滅する危険があります。

民法は、車の修理費、代車代等、物の損傷を理由とする損害(物的損害)と、怪我の治療費、慰謝料等、身体の傷害を理由とする損害(人的損害)とは、それぞれ異なる時効期間を定めているため、注意が必要です。

物的損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年経過すると、時効が完成します。
人的損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から5年経過すると、時効が完成します。

3年や5年は長いと感じる方も多いかもしれませんが、事故で重傷を負うと、請求時には事故から3年、5年が経過しているケースも珍しくありません。

例えば、次のようなケースです。

バイクを運転中にトラックに撥ねられ、多数か所を骨折した被害者が、数か月入院し、退院後も経過観察やリハビリのために通院を続けました。しばらくして、加害者の保険会社に治療費の支払いを打ち切られましたが、その後も2年間治療を続け、結局、複数の症状が残ったまま症状固定となりました。
そこで、自賠責保険会社に対して後遺障害の申請をしたところ、等級認定機関(損害保険料率算出機構)が種々の医療照会を実施して、事故から3年6か月後に結果が出ました。
ところが、その結果は受け入れがたい内容であったため、さらなる資料を収集して、自賠責保険会社に対して異議申立てをしたところ、事故から4年6か月後にようやく納得のいく結果が出ました。
事故によりバイクは廃車となりましたが、治療費支払いの打切り後は、加害者の保険会社から連絡がなくなり、負傷してバイクに乗ることができないので買い替えることもなく、バイクや事故時に身に着けていた衣服やヘルメット等、物的損害について請求していませんでした。
そこで、異議申立てをして後遺障害の結果が出た後、人的傷害と物的損害を合わせて賠償請求しました。

このように、治療を続けたり、後遺障害の申請をしているうちに事故から数年が経過している場合は、物的損害賠償請求権や人的損害賠償請求権が時効によって消滅することのないよう、時効の完成猶予や時効の更新という手を打っておかなければなりません。

事故からすでに長期間が経過している方は、早めに弁護士にご相談ください。

証人尋問と当事者尋問

交通事故の被害者が加害者に対して損害賠償を請求しても、話合いで解決することがきない場合に、訴訟提起(裁判)することがあります。

訴訟になると、交通事故の目撃者等、訴訟当事者(原告と被告)ではない第三者を証人として尋問したり、訴訟当事者本人を尋問することがあります。

前者を証人尋問、後者を当事者尋問といい、証人や当事者が法廷で尋問されて述べたことは、証拠として扱われます。

証人尋問と当事者尋問は、訴訟手続き上、次のような違いがあります。

訴訟のルールとして、証拠は、原告(訴えた側)と被告(訴えられた側)が、それぞれ自ら収集して提出すべきとされているため、原告や被告が特定の証人を尋問したいと申し出なければ、裁判所は、証人尋問することはできません。

他方、当事者本人の尋問については、原告や被告の申出がなくても、裁判所の判断で行うことができるとされています。

証人が正当な理由なく出頭しないときは、10万円以下の罰金に処せられたり、10万円以下の過料という制裁金の支払を命じられる可能性があります。

他方、当事者が正当な理由なく出頭しないときは、10万円以下の過料に処せられる可能性があるのみで、罰金等の刑罰が科されることはありません。

宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、偽証罪として3月以上10年以下の懲役に処せられる可能性があります。

他方、宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは、10万円以下の過料に処せられる可能性があるのみで、偽証罪に問われることはありません。

交通事故の被害者による損害賠償請求訴訟では、過失割合が争点となる場合に当事者尋問が行われることが少なくありません。

ほとんどの交通事故は一瞬の出来事ですから、事故が発生した状況を、当事者の記憶に基づいて正確に陳述することは至難です。

弁護士は、依頼人である当事者が適切に陳述することができるよう、あらかじめ尋問事項を想定し、依頼人とリハーサル等して、尋問の準備をします。

自転車用ヘルメットの購入と運転免許証自主返納

自宅のポストに投函された区報の一面記事が目に留まり、区の仕事ぶりを知るためにも、珍しく目を通してみました。

その記事は、「自転車用ヘルメット購入補助制度が始まります。区内対象店舗で3000円以上の安全基準を満たしたヘルメットの購入で2000円引き!」といった内容です。

令和5年4月1日から改正道路交通法が施行され、すべての自転車利用者のヘルメット着用が努力義務化されたことに伴い、区民のヘルメット着用を促進するための制度です。

東京都も、こうした動きを加速させるため、区市町村が行う自転車乗車用ヘルメットの購入助成額に対し、補助を実施しています。

警視庁の調査によると、東京都のヘルメット着用率は10.5%(令和5年7月時点)とのことです。

たしかに、東京都内を走る自転車を見ると、ヘルメットを着用していない方のほうが多いです。

さらに読み進めると、「70歳以降の方へ 運転免許証自主返納をサポートします」の見出しが。

「運転に不安を感じたり、家族から心配されたりしたら、運転免許証の返納を検討してみませんか。すべての運転免許証を自主返納して申請すると、公共交通機関利用時に使える5000円分チャージ済みの交通系ICカードを交付します。」といった内容です。

交通系ICカードの交付は、公共交通機関が発達した東京都区部の方にとっては、自主返納の促進剤になるかもしれません。

私は、区報を読むまで、これらの制度を知りませんでした。

区報は、毎月2回、12ページ程度のカラー印刷物が自宅に配布されるので、相当な費用を要するはずです。

費用に見合った政策の効果が得られることを期待します。

安全運転のしおり

運転免許証更新の講習の際、「わかる 身につく 交通教本」の他に、「安全運転のしおり たくさんんの 笑顔が走る 首都東京」もいただきました。

こちらも興味深い情報が多数掲載されています。

令和4年の全国における交通事故死者数は2610人となり、警察庁が保有する昭和23年以降の統計で最小とのことです。

発生件数は30万0839件、負傷者数は35万6601件、いずれも18年連続して減少しています。

令和4年の東京都内における交通事故死者数も、戦後最小の132人ですが、発生件数(3万0170件)、負傷者数(3万3429件)は前年より増加しています。

都内における死亡事故は、歩行中(37.9%)→二輪車乗車中(30.3%)→自転車乗車中(22.7%)→四輪車乗車中(8.3%)の順に亡くなった方が多く、四輪車乗車中に亡くなった11人のうち4人はシートベルを着用していませんでした。

都内における一般道路のシートベルト着用状況は、運転者(99.3%)、助手席同乗者(97.3%)、後部座席同乗者(52.3%)とのことです。

車に乗ったら、まずシートベルトをすることが習慣になっている私には、後部座席同乗者のシートベルト着用率の低さに驚きました。

ただ、前年比は(+6.5%)と着用率が増加しているので、次第に「後部座席でも、まずシートベルト」が定着してものと思われます。

運転免許証の更新

「運転免許証更新のお知らせ」が届きました。

ああ、もう5年経ったのね、時が経つのは早すぎるなどと思いつつ、東京法律事務所の最寄りの運転免許更新センターに行ってきました。

視力検査や写真撮影を終えると、30分の講習を受けます(動画を見ます。)。

この動画がよくできていて、30名ほどの他の受講者も、みな真面目に見ている様子です。

私は、ふだん車の運転をしないこともあって、いつも優良運転者講習を受けますが、一般運転者講習(1時間)、違反運転者講習(2時間)、初回更新者講習(2時間)もあるので、他の動画もみてみたいと思います。

また、「わかる 身につく 交通教本」という100頁超の冊子もいただきます。

冒頭の「トピックス」には、最近の道路交通法例の改正点等について、分かりやすく説明しています。

令和5年4月版には、次のような項目が掲載されています。

1 特定自動運行に係る許可制度の創設に関する規定の整備(令和4年4月27日公布 令和5年4月 1日施行)

2 新たな交通主体の交通方法等に関する規定の整備(令和4年4月27日公布)

①特定小型原動機付自転車(電動キックボード等)の交通方法等(令和5年7月1日施行)

②遠隔操作型小型車(自動配送ロボット等)の交通方法等(令和5年4月1日施行)

3 運転免許証と個人番号カード(マイナンバーカード)の一体化に関する規定の整備(令和4年4月27日公布 3年以内に施行予定)

この冊子は、勉強になる情報満載で、「保存版」と書いてあるとおり、保存したくなる内容です。

運転代行サービス利用中の交通事故(自賠責保険金請求の可否)

運転代行業者のドライバーが、運転代行サービスの利用客の所有車に利用客を乗車させて運転中、過失運転によって交通事故を発生させた結果、利用客を負傷させた場合、利用客は、事故に遭った自分の車を被保険自動車とする自賠責保険金を請求することは可能でしょうか。

自動車損害賠償保障法は、次のように定めています。

2条3項 この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。

3条本文 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

利用客は自分の所有者に乗車中に事故に遭ったため、代行業者は、2条3項の「保有者」に当たらないのではないかが問題となります。

また、3条の「他人」とは、 自己のため自動車を運行の用に供する者(運行供用者)及び運転者以外の者をいうと考えられているため(最高裁判所昭和47年5月30日第3小法廷判決等)、利用客は、「他人」に当たらないのではないかが問題となります。

同様のケースで、運転代行サービスの利用客と自賠責保険会社が争った裁判例をご紹介します。

利用客(X)は、自賠責保険会社(Y)に対して、代行業者(A)がXの車の「保有者」としてXの損害を賠償する義務を負うとして自賠責保険金を請求しました。

一審判決(前橋地方裁判所高崎支部平成5年2月10日判決)及び原判決(東京高等裁判所平成6年3月31日判決)はXの請求を認めたため、Yが上告したところ、最高裁判所は、次ように判示して、Yの保有者としての責任を認めました。

「Aは、運転代行業者であり、本件自動車の使用権を有する被上告人(X)の依頼を受けて、被上告人(X)を乗車させて本件自動車を同人の自宅まで運転する業務を有償で引き受け、代行運転者であるaを派遣して右業務を行わせていたのであるから、本件事故当時、本件自動車を使用する権利を有し、これを自己のために運行の用に供していたものと認められる。したがって、Aは、法2条3項の「保有者」に当たると解するのが相当である。」「被上告人(X)は、飲酒により安全に自動車を運転する能力、適性を欠くに至ったことから、自ら本件自動車を運転することによる交通事故の発生の危険を回避するために、運転代行業者であるAに本件自動車の運転代行を依頼したものであり、他方、Aは、運転代行業務を引き受けることにより、被上告人(X)に対して、本件自動車を安全に運行して目的地まで運送する義務を負ったものと認められる。このような両者の関係からすれば、本件事故当時においては、本件自動車の運行による事故の発生を防止する中心的な責任はAが負い、被上告人(X)の運行支配はAのそれに比べて間接的、補助的なものにとどまっていたものというべきである。したがって、本件は前記特段の事情のある場合に該当し、被上告人(X)は、Aに対する関係において、法3条の「他人」に当たると解するのが相当である。」(最高裁判所平成9年10月31日第2小法廷判決より抜粋)。

自転車損害賠償責任保険

条例によって自転車損害賠償責任保険等への加入を義務化する動きが広がっています。

国土交通省のウェブサイトによると、令和5年4月1日現在、32都府県において条例により自転車損害賠償責任保険等への加入を義務化し、10道県において努力義務化する条例が制定されています。

私が住んでいる東京都では、令和2年4月1日から「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が改正され、自転車利用中の事故によって他人を死傷させた場合に損害賠償できるよう、自転車利用者、保護者、自転車を業務で使用する事業者、自転車貸付業者に自転車損害賠償保険等への加入が義務化されました。

今年、区から送付された区民健診の案内には、「区民交通傷害保険加入のご案内」が同封されていて、自転車損害賠償責任保険への加入を促しています。
「ご案内」には、高額損害賠償の事例として、次の裁判例(神戸地方裁判所平成25年7月4日判決)の概要を紹介しています。
男子小学生(11歳)が自転車走行中、歩道と車道の区別のない道路において、歩行中の女性(62歳)と正面衝突し、女性は、急性硬膜下血腫、脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となったケースについて、裁判所は、男子小学生の親権者に監督者責任を認め、9520万7082円の賠償金の支払いを命じました。

代車を運転中に交通事故に遭ったとき

車を修理したり車検を受けるとき、ディーラーや整備工場が無償で(サービスで)代車を貸してくれることがあります。
代車を運転中に交通事故に遭って、代車が損壊し、代車の損害額が修理費相当額である場合、事故の相手の過失が100%であれば、事故の相手が加入している任意保険会社が修理費を支払ってくれることが多いです。

しかし、代車の運転者にも過失がある場合、自分の過失割合に相当する修理費については、相手方に請求することができません。
また、相手の車の損害(修理費または時価額)について、相手方から自分の過失割合に相当する賠償金を請求されることになります。

この場合、代車に付保された保険(車両保険、対物賠償責任保険)を使うことができれば、代車の運転者が自分で負担する必要はありません。

もっとも、代車に付保された保険を使うと等級ダウンするため、保険利用の可否は、代車を貸した業者によって異なります。

代車の保険を使えなくても、自分の車の任意保険には、通常、他車運転特約が自動付帯されているので、特約を利用できる条件をクリアすれば、自分の自動車保険を使って修理したり、相手車の損害を賠償することができます。

ただし、他車運転特約により補償される範囲は、自分の自動車保険の契約内容と同じ範囲となるため、自分の自動車保険に車両保険を付帯していなければ、自分の過失割合に相当する代車の修理費は自己負担となります。

過失割合が問題になる場合、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

自転車用ヘルメットの着用義務

令和5年4月1日から施行された改正道路交通法は、これまでの児童や幼児の保護責任者だけでなく、あらたに自転車の運転者にもヘルメット着用の努力義務を課しています。

(自転車の運転者等の遵守事項)
第63条の11 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
2 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
3 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

上記条文のように、「努めなければならない」という努力義務を定めたにすぎず、ヘルメットを着用しなくても、処罰されることはありません。

しかし、ヘルメットを着用しないで交通事故に遭った場合、加害者から支払われる賠償金が減額される可能性があります。

例えば、ヘルメットを着用しないで自転車を運転し、青信号で交差点に進入したところ、赤信号で交差点に進入してきた自動車に撥ねられて頭部を損傷して死亡した場合、加害者側から、ヘルメットを着用していれば死亡しなかった可能性が高いことを理由に、被害者にも5%の過失があるなどと主張されるかもしれません。

自転車事故により被害に遭った方は、弁護士に相談することをおすすめします。

休車損害の算定方法(休車期間)

休車損害は、事故に遭った営業車が1日当たりに得る利益に休車期間を乗じて算定します。

休車期間は、相当な修理期間または買替期間です。

そのため、事業主が、正当な理由なく、修理や買い替えを遅滞させた場合、休車期間が制限されることになります。

例えば、平成31年2月8日東京地方裁判所判決は、大型の冷蔵冷凍車について、原告が「原告車の修理にも代替車の取得にも数箇月を要するが、原告は原告車の他に冷蔵冷凍車を保有していないから、少なくとも6か月分の休車損が生じた」と主張し、これに対し、被告が「原告車の買替えに要する期間は1か月程度で足りる」と主張したところ、「原告車の損傷状況等に関する被告保険会社による調査が本件事故後約1か月を経過した平成28年8月22日に行われたこと(甲3)、前記1(2)のとおり、取得した車両を原告車に替えて使用するには相応の整備を要することからすれば、原告車の買替えに要する相当な期間は4か月間であると認められる。原告は、修理工場から修理には少なくとも6か月はかかると言われ、また、被告保険会社は平成28年12月になって初めて原告車の修理の内容及び金額を原告に説明したなどとして、少なくとも6か月分の休車損が生じた旨を主張するが、修理に6か月もの期間を要することを裏付ける的確な証拠はないし、被告保険会社との交渉に期間を要したとしても、そのために修理や買替えに着手することができないわけではないから、原告の主張はいずれも採用することができない。」と判示しました。