休車損害(遊休車の存否・実働率)

遊休車が存在しなかったことは、休車損害が認められるための要件ですから、被害者がこれを立証しなければならないと考えられています。

路線バスについては、法令上、原則として1営業所ごとに最低5両の常用車及び1両の予備車を配置すべきとされ、予備車を保有していることが事業許可の条件となっています。
そのため、路線バスが事故に遭って損傷して使用できなくなっても、他の遊休車を活用することができるので、通常、休車損害は否定されるでしょう。

タクシーやトラック等、予備車の保有が義務付けられていない営業車については、遊休車の存否を判断するにあたり、実働率を考慮することがあります。
実働率は、保有車の台数に対する稼働車の台数の比率のことです。
実働率が100%であれば、遊休車は存在しないことになりますが、100%未満であっても、直ちに休車損害が否定されるわけではありません。

例えば、平成27年2月25日東京地方裁判所判決は、「証拠(略)によれば、原告は、一般旅客自動車運送事業等を営む株式会社であるところ、平成24年3月31日時点の事業用自動車数は212台、同日時点の従業員数(運転者数)は504人、平成23年度の延実在車両数は7万7592台、同年度の延実働車両数は6万8298円台、同年度の実働率は88パーセントであったことが認められるが、これらの各数字からすると、原告は、本件事故当時、遊休車を保有していたことがうかがわれるというべきであり、他に、原告が、本件事故当時、原告車以外の保有車両を可能な限り使用していた等の事情により遊休車が活用できなかったと認めるに足りる証拠はない。」として、休車損害を認めませんでした。

他方で、平成29年8月25日大阪地方裁判所判決は、「(証拠)によれば、本件事故の発生した月の前月である平成24年9月において、原告は、7社から傭車を手配させていたことが認められる。また、(証拠)によれば、平成24年3月31日時点での原告の名張営業所の保有車両は32台であり、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの輸送実績は、延べ実在車両数6205台、延べ実働車両4428台であり、実働率は約71パーセントであると認められる。(中略)そして、平成24年9月8日時点の車輌一覧表(証拠)には、原告保有の41台の車両それぞれに1名ずつ乗務員が対応付けられており、他に原告の保有車両があったとする証拠はないから、原告が傭車を手配していたことも併せ考えると、原告には遊休車両がなかったものと認められる」として、休車損害を認めました。
さらに、「被告らは、車両ごとに専属運転者がいたとしても、労働者が車両を運転できる時間には限度があり、専属運転者が車両を運転していない時間であれば、車両を使用できるとする趣旨の主張をしているが、遊休車両の存否で問題となるのは、遊休車両の存在により、原告貨物車が使用不能になったことの業務上の影響がないといえるかどうかであり、専属運転者を決めて使用していた車両の業務内容を、専属運転者を決めて使用していた他の車両の空き時間での使用で完全に代替できるとは考え難いから、主張は採用できない。」と判示しました。

休車損害(遊休車の存否)

バス、タクシー、トラック、ダンプカー等、緑ナンバーや黒ナンバーの営業車が事故によって損傷し、修理期間や買い替えに要する期間、その車を稼働することができず、売上が減少することがあります。

このような場合、事故に遭わなければ得られるはずであった利益相当額を損害とみて、加害者に休車損害を請求することができます。

もっとも、休車損害が認められる条件や損害額の算定方法については、明確とはいえず、休車損害を請求するための資料の収集にも苦労します。

休車損害が認められるための条件は、事故に遭った車を使用する必要があることです。

そのため、事業主が事故に遭った車の他にも遊休車(代替車)を保有している場合、これを稼働させることによって売上の減少を回避することができるため、休車損害は認められません。

例えば、平成10年11月25日東京地方裁判所判決は、「原告は、休車損害として、一日あたり一万円で修理相当期間である二日間分の二万円を主張する。しかし、原告は、タクシー会社であるから、代替車両が存在するのが通常と考えられ、本件においては、代替車両の存否を含めて休車損害の発生の根拠について、主張も立証もない」として、休車損害を認めませんでした。

他方で、平成13年6月5日大阪地方裁判所判決は、「証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により、原告は(略)、原告車両の修理には平成一二年四月四日から同月六日までの三日間を要し、その間、原告が所有する原告車両と同型の二台の大型車両はいずれも長距離運行中であり、他に原告車両の代替車となりうる車両はなかったこと(略)が認められる」として休車損害を認めました。

このように、裁判実務では、遊休車の存否が争われることが多く、被害者は、緻密な主張立証を求められます。

運転代行サービス利用中の交通事故

明けましておめでとうございます。

年末、東京駅周辺は、忘年会帰りと思われるスーツ姿のグループや郷里・旅行に出かけるのであろう多くの人々で賑わっていました。

この時期は、酒席が多くなるためか、運転代行サービスを利用中に交通事故被害にあったとのご相談が増えます。

例えば、運転代行業者のドライバーが、利用客を乗せて利用客の所有車を運転中、うっかり電柱に衝突した結果、利用客の車を壊すとともに利用客を負傷させた場合、被害者である利用客は、そのドライバーに対して、車の損傷に伴う物的損害と負傷に伴う人的損害について賠償請求することができます。

被害者は、ドライバーの使用者である運転代行業者に対して賠償請求することもでき、通常、代行業者が加入している保険や共済から賠償金が支払われます。

運転代行業者は、代行運転自動車と随伴用自動車のいずれについても、利用者等の生命、身体又は財産の損害を賠償するため、対人8000万円以上、対物200万円以上を限度額としててん補することを内容とする損害賠償責任保険(共済)契約を締結することが義務付けられているからです。

ただし、保険に未加入のまま運転代行を行う業者もいるようですので、運転代行業者を利用する際は、事前に保険に加入しているか確認しておくとよいでしょう。

診療記録の開示

弁護士は、交通事故によって負傷した被害者の代理人として、入通院先の病院に対し、被害者の診療記録の開示を請求することがあります。

平成15年9月12日、厚生労働省が「診療情報の提供等に関する指針」を示し、日本医師会も同様の指針を示しているため、今では、ほとんどの病院が開示に応じていますが、稀に、開示を拒否する病院があります。

被害者の方が開示を求めて拒否されたら、その病院に厚生労働省や日本医師会の指針の内容を伝え、開示を拒否する理由について文書により回答を求めてみるとよいでしょう。

厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」は、診療記録の開示(7項)と診療情報の提供を拒み得る場合(8項)について、次のように定めています。

7 診療記録の開示

 (1) 診療記録の開示に関する原則

 ○ 医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。

 ○ 診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、医療従事者等は、できる限り速やかにこれに応じなければならない。この場合にあっては、担当の医師等が説明を行うことが望ましい。

 (2) 診療記録の開示を求め得る者

 ○ 診療記録の開示を求め得る者は、原則として患者本人とするが、次に掲げる場合には、患者本人以外の者が患者に代わって開示を求めることができるものとする。

 ① 患者に法定代理人がいる場合には、法定代理人。ただし、満15歳以上の未成年者については、疾病の内容によっては患者本人のみの請求を認めることができる。

 ② 診療契約に関する代理権が付与されている任意後見人

 ③ 患者本人から代理権を与えられた親族及びこれに準ずる者

 ④ 患者が成人で判断能力に疑義がある場合は、現実に患者の世話をしている親族及びこれに準ずる者

 (3) 診療記録の開示に関する手続

 ○ 医療機関の管理者は、以下を参考にして、診療記録の開示手続を定めなければならない。

 ① 診療記録の開示を求めようとする者は、医療機関の管理者が定めた方式に従って、医療機関の管理者に対して申し立てる。なお、申立ての方式は書面による申立てとすることが望ましいが、患者等の自由な申立てを阻害しないため、開示等の求めに係る申立て書面に理由欄を設けることなどにより申立ての理由の記載を要求すること、申立ての理由を尋ねることは不適切である。

 ② 申立人は、自己が診療記録の開示を求め得る者であることを証明する。

 ③ 医療機関の管理者は、担当の医師等の意見を聴いた上で、速やかに診療記録の開示をするか否か等を決定し、これを申立人に通知する。医療機関の管理者は、診療記録の開示を認める場合には、日常診療への影響を考慮して、日時、場所、方法等を指定することができる。

 なお、診療記録についての開示の可否については、医療機関内に設置する検討委員会等において検討した上で決定することが望ましい。

 (4) 診療記録の開示に要する費用

 ○ 医療機関の管理者は、申立人から、診療記録の開示に要する費用を徴収することができる。その費用は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内の額としなければならない。

8 診療情報の提供を拒み得る場合

 ○ 医療従事者等は、診療情報の提供が次に掲げる事由に該当する場合には、診療情報の提供の全部又は一部を提供しないことができる。

 ① 診療情報の提供が、第三者の利益を害するおそれがあるとき

 ② 診療情報の提供が、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき

<①に該当することが想定され得る事例>

・ 患者の状況等について、家族や患者の関係者が医療従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、患者と家族や患者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合

<②に該当することが想定され得る事例>

・ 症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合

※ 個々の事例への適用については個別具体的に慎重に判断することが必要である。

 ○ 医療従事者等は、診療記録の開示の申立ての全部又は一部を拒む場合には、原則として、申立人に対して文書によりその理由を示さなければならない。また、苦情処理の体制についても併せて説明しなければならない。

代車の使用期間

交通事故により被害車両が損傷し、修理や車の買い替えに要する期間、代車の使用を余儀なくされたにもかかわらず、加害者側の保険会社が、実際に代車を借りた期間の代車代の(一部の)支払いを拒むことがあります。

代車の使用期間が争点となる場合、裁判所は、諸事情を考慮して必要かつ相当な期間についてのみ代車の使用料を認定します。

ご紹介する裁判例(平成19年2月28日東京地方裁判所判決)は、修理費・時価額・過失割合について被害者と加害者が熾烈に争った結果、修理や買い替えることができないまま代車の使用期間が長期化し、訴訟に至ったという典型例です。

平成17年9月19日発生の事故の被害者(原告)は、次のように主張して、平成18年2月5日までに支払った代車使用料として383万2930円を請求しました。

 「本件事故後、原告X1は、被告が加入する損害保険会社(以下「被告損保会社」という。)の担当者(以下「損保担当者」という。)から、過失相殺を主張され、修理代は90パーセントしか出せないし、代車は一切出せないと言われた。そこで、原告X1がディーラーに相談したところ、平成17年10月2日から同月15日まで、代車を無料で借りることができたので、原告車両を見積りと修理に出した。ところが、塗装の範囲、代車、過失相殺について被告損保会社ともめたため、結局、塗装前に修理を中断した。そのうち、代車を無料で借りることができる期間を経過してしまい、原告X1が費用を負担してレンタカーを借りることになった。その後、ディーラーが被告損保会社に確認をし、被告損保会社が修理代の支払を了解したということで、同月22日に修理を完了させた。しかし、結局修理代を全額支払ってもらえないという話になり、原告X1に原告車両を返還してもらえない状態になっている。その間に、原告X1は高額のレンタカー代を支出するなど、その被害が拡大し、取り返しのつかない損害を被るに至った。最終的に、平成18年4月には、原告X1はやむなく別の車両を購入している。 

      本件紛争がここまで複雑化したのは、当初の段階で、損保担当者が、代車代を一切出さないと言ったことに起因している。そして、原告X1は、その代わりに、修理の範囲を部分塗装とするなら過失相殺を一切しない形で賠償してもらえないかと交渉したが、否定されたため話し合いにならなかった。その後、被告代理人弁護士が選任され、初めて代車代を出すという話が出たが、被告代理人弁護士が過失割合について被告損保会社の見解(9:1)と異なる見解(8:2)を主張するに至ったことから、原告X1としても、容易に示談に応じることができなくなった次第である。このように、本件事故から本件訴訟に至るまでの経過において、原告X1の責めに帰すべき事情は全くない。よって、原告X1が請求する前記代車使用料相当の損害金が認められるべきである。」

これに対し、加害者(被告)は、次のように、平成17年10月4日から同月22日までの代車使用料として6万8880円のみ認めると主張しました。

 「原告車両が修理工場に納車されたのは、平成17年10月4日であり、修理が終了して納車されたのは、同月22日である。また、原告X1が代車を借りたのは同月17日からであるから、代車使用料が本件事故と因果関係のある損害として認められるのは、同月17日から同月22日までの分であるところ、被告の調査によれば、同月17日及び20日が1日当たり各1万3440円、同月18日、19日、21日、22日が1日当たり各1万0500円であるから、合計6万8880円となる。

同月22日の後のレンタカー代については、原告X1が不合理な主張に拘泥して自ら損害を拡大したものであるので、被告に賠償義務はない。
すなわち、本件事故後、原告X1と損保担当者は交渉していたが、当初、原告X1は自己の過失を全く認めなかった。その後、損保担当者は本件事故で損傷した左側面部分を修理範囲とする見積書を出し、この見積りに従って修理が開始された。同月13日、原告X1が被告に電話をかけ、原告X1の主張するとおり示談するよう強談したため、被告側は弁護士が交渉に当たることとなった。被告代理人は、原告X1に対し、同月18日付け通知書において、賠償の範囲として認められる代車使用料が修理期間分である旨説明しており、原告X1は、同月21日に、本件の賠償問題について弁護士に相談をしている。原告X1が全塗装にこだわっていたのは、部分塗装の場合、塗装部分と塗装しなかった部分が分かってしまうからとのことであったが、修理後の原告車両を見た原告X1は、塗装がきちんとなされていることを認めていた。それにもかかわらず、原告X1は、修理終了後も、部分塗装であるから被告が修理代を全額負担せよ、自己の過失割合はゼロである、原告X1がレンタカーを借りた全期間につきレンタカー代全額を支払え等の主張に固執したため、示談に合意することができなかった。同年11月6日、被告代理人は、原告X1が自己負担する費用の増大を憂慮し、円満な早期解決を図るため、被告の過失割合を9割とするところまで譲歩し、修理代92万4147円及びレンタカー費用6万8880円の合計額の9割である99万3027円を示談金額とする示談書を作成して、原告X1に郵送した。同月9日には、原告X1と被告代理人が面談し、原告X1は、示談書の内容に合意する、印鑑を持参していないので示談書は後日郵送する旨述べて、面談は終了した。しかし、示談書は郵送されず、同月16日になって、原告X1から損保担当者に対し、示談に応じられない旨の連絡があった。その後、何度か被告代理人が原告X1に連絡をとったが、原告X1は話し合いに応ずることがなかった。
なお、原告車両の納入前に被告に代理人弁護士が受任して適正な賠償額を提示しており、原告X1自身、弁護士に本件事故による賠償について相談しているから、被告側が代車使用料を認めなかったことをもって交渉期間が長引いたとはいえない。
仮に、同年10月22日後の代車使用料が認められるとしても、当初、原告X1が借り受けていたレンタカー代金は、1日当たり1万3440円又は1万0500円であったのに対し、同年11月11日から借り受けた代車は1日当たり2万8000円と著しく高額である。原告X1が平成18年4月7日に購入し登録した国産車の代金が25万0500円であったこと、原告X1の月収が50万円くらいであることからすると、原告X1には高級車使用の必要性はなかったと推認される。」

裁判所は、次のように、平成17年11月10日までの30万4930円を相当な代車使用料であると判示しました。

「ア 原告車両の修理が終了して納車された日である平成17年10月22日までの6日分(なお、それ以前の日については、無料で代車を借りることができたものであるから〔甲26、原告X1本人〕、原告X1に損害は発生していない。)の代車使用料6万8880円(甲5の2及び3、乙10、14)については、被告も認めるところである。
また、原告X1は、車両を通勤のために使用していたほか(早朝出勤であることも多い。)、家族の通院等のためにも使用していたものと認められるので(甲18の1ないし5、甲26、原告X1本人)、代車使用の必要性は認められる。
   イ 原告X1は、修理終了後も平成18年3月ころまで代車を使用し(甲5の1ないし5、甲6、甲13ないし15の各1及び2)、同月、25万0500円で中古の軽自動車を購入した(甲16、17)。原告X1が新たに中古車を購入したのは、原告車両の修理代を支払うことができないため、修理工場から原告車両の返還を受けられなかったからであること、修理代の支払ができなかったのは、原告X1と損保担当者あるいは被告代理人との交渉が合意に至らなかったためであること、原告X1と被告側との間では、修理代(修理の範囲)及び過失割合のほか、代車費用についても交渉の対象となっていたことが認められる(甲8の2、甲26、乙1の1、乙2の1、原告X1本人)。この間、双方がそれぞれ自己の見解を示す一方、解決案を提案しつつ交渉が進められており、損害額や責任の範囲について交渉が決着し、現実に賠償が行われるまでに一定の時間を要することは、交通事故損害賠償の交渉において稀なことではないから、原告X1のみに交渉が早期決着しなかったことの原因があるということはできず、損害の公平な分担の観点からは、交渉が長期化したことによる損害をすべて原告X1の負担とすることは相当ではない。しかし、損害賠償の範囲は不法行為によって通常生ずべき損害とするのが原則であるところ(民法416条参照)、本件では、修理代について、前記(1)の92万4147円で修理可能であることは原告X1も修理が終了するころまでには認識していたと考えられること(甲7の1及び2)、平成17年10月21日には、原告X1は弁護士に本件事故について相談していることがうかがわれること(乙17の1及び2)、同月29日付けで修理工場側において修理代92万4147円の請求書が作成され、原告X1に送付されていること(甲29)、同年11月上旬、被告代理人が、前記(1)の修理代92万4147円及び前記アの代車使用料6万8880円の合計額の9割相当額を支払うことを内容とする示談書を作成して原告X1に送付し、同月9日、原告X1と面談し、原告X1はその場では一応了承したものの(ただし、当日印鑑を持参し忘れたため、示談書の作成に至らなかった。)、後日、示談に応じかねる旨返答したこと(乙3、原告X1本人、弁論の全趣旨)、原告X1は、同月10日までは、被告が認める前記アの代車使用料(1日当たり1万0500円又は1万3440円)に係る代車と同一車両を同一のレンタカー会社から借りて使用していたが、同月11日以降、1日当たり2万8000円という2倍以上の価格で代車を借りるに至っていること(甲5の1ないし5、甲6、甲13ないし15の各1及び2)等の事実に照らすと、本件において相当な代車使用料は、平成17年11月10日までの分と認めるのが相当である。
   ウ したがって、代車使用料は、合計30万4930円(前記アの6万8880円を含む。)である(甲5の1ないし5)。」

なお、判決文中( )内の「甲」「乙」という記号は、原告と被告が提出した証拠の種類を示しています。

交通事故に遭ったら

交通事故の被害者が、事故直後にすべきことは、警察への連絡です。

怪我をしても(人身事故)、していなくても(物損事故)、事故の当事者は、警察への報告義務があります。

警察に連絡しなければ、交通事故証明書の発行を受けることができず、事故が起きたことを証明することが困難になります。

被害車両の修理、ケガの治療、示談交渉等、各種手続きをスムーズに行うことができるように、加害者の名前、連絡先、住所、加入している保険会社等を聞き取り、すぐに保険会社等と連絡がとれるようにしましょう。

加害車両と被害車両の損傷か所等も、相互に確認して、写真に撮っておきましょう。

積み荷、着衣、所持品等が破損した場合、破損状況が分かるように、写真に撮っておきましょう。

事故直後は気が動転して痛み等を感じにくいこともありますが、数時間後に症状が出てくるケースは少なくありません。

すぐに病院で診察を受け、すべての症状を漏れなく伝え、必要な検査をしましょう。

初診が遅れると、事故とケガとの関連性の証明が困難となり、加害者側から治療費の支払いを拒否されるおそれがあります。

加害者の保険会社に負傷したことや通院先の連絡先を報告して、加害者の保険会社に治療費等を支払ってもらう手続きをしましょう。

加害者側の対応に疑問や不安があれば、弁護士にご相談ください。

 

高齢者・失業者の後遺障害による逸失利益

前回のお話の続きです。

後遺障害による逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

によって算出されます。

基礎収入は、原則として、交通事故当時の現実の収入を基準とするため、事故時に無職で収入がない被害者は、原則として、逸失利益がないことになります。

しかし、例えば、高齢の方が事故時は無職であったとしても、事故前の職歴、年齢、事故当時の生活状況等から、就労の蓋然性があれば、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・男女別・年齢別平均の賃金額を基礎として、逸失利益が認められる場合もあります。

また、例えば、前職を辞めて転職活動中に事故に遭ったり、病気や介護等、何らかの理由で退職した後に事故に遭う等して、事故時に失業中であった方も、事故前の職歴や収入、学歴、年齢、無職に至った経緯、事故当時の生活状況等を考慮して、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があれば、逸失利益が認められる場合もあります。

その場合、原則として、失業前の収入等を参考として、再就職によって得られるであろう収入を基礎とします。

失業前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があることを証明することによって、男女別の賃金センサスを基礎とするケースもあります。

無職の方に逸失利益が認められるかどうかは、事故前の職歴や収入、学歴、年齢、無職に至った経緯、事故当時の生活状況等、個別の事情によって異なります。

事故当時、無職であったからと簡単に諦めず、まずは、交通事故に強い弁護士に相談することをお勧めします。

学生・幼児等の後遺障害による逸失利益

後遺障害による逸失利益とは、交通事故の被害者に後遺障害が残った場合、後遺障害が残ったために、将来、得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害のことです。

後遺障害による逸失利益は、次の計算式によって算出されます。
逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入は、原則として、交通事故当時の現実の収入を基準とします。
給与所得者であれば事故の前年度の源泉徴収票等、自営業者であれば事故の前年度の確定申告書や課税証明書等によって証明可能です。
他方、事故時に無職で収入がない被害者は、原則として、逸失利益がないことになります。

しかし、例えば、学生や幼児のような年少者は、通常、事故時に無職ですが、年少者は、将来、さまざまな職から何らかの職を選択して就労する蓋然性が高いと考えられます。

そこで、年少者は、原則として、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均の賃金額を基礎として、逸失利益が認められます。

賃金センサスとは、厚生労働省による職種別・年齢別等の賃金に関する統計である「賃金構造基本統計調査」のことです。

ただし、例えば、大学進学が予定されていた高校生の被害者について、学歴計ではなく大学卒の賃金センサスが採用される等して、より高い逸失利益が認められるケースもあります。

被害者ごとの個別具体的な事情を考慮して、適切な逸失利益を獲得するために、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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交通事故の被害者にも過失がある場合の賠償金

交通事故の被害者は、事故で被った損害について、加害者の故意や過失によって発生した損害についてのみ賠償請求することができます。

そのため、交通事故の被害者にも過失がある場合、被害者の過失によって発生した損害については、相手方に請求することはできません。

ところが、被害者が治療するにあたり、加害者が加入する保険会社が治療費を先払いすることがあり、その際、加害者側保険会社は、通常、医療機関に治療費全額を支払います。

本来、被害者は、自分の過失相当分の治療費を加害者側に請求することができないので、治療が終了して加害者側と示談する際、加害者側保険会社が払いすぎた治療費を慰謝料等から差し引いた残額が示談金として支払われることになります。

例えば、被害者の事故による損害額が、治療費200万円+休業損害100万円+慰謝料200万円=計500万円、被害者と加害者の過失割合が20%対80%、加害者側保険会社が被害者の通院先に治療費200万円を先払いした場合、最終的に被害者に支払われる示談金は、500万円×(1-0.2)-先払いした治療費200万円=200万円となります。

過失割合によって、被害者に支払われる賠償金が異なりますから、過失割合が問題になる場合、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

交通事故の示談交渉

交通事故により負傷した被害者が治療する際、加害者側の保険会社が治療費を先払いすることがありますが、このときは、まだ示談交渉は始まっていません。

交通事故の示談交渉は、加害者が被害者に対して賠償金をいくら払うかについての話合いなので、治療費等が確定しなければ、賠償金を確定することもできないからです。

そのため、治療が終了した後、または、事故によるケガが治ることなく症状固定となってその症状について後遺障害等級に関する判断がでた後、示談交渉がスタートします。

具体的には、まず、加害者側の保険会社が被害者の賠償金を計算します。

計算が終わると、保険会社が被害者に対して計算内容を提示して、計算結果を記載した示談書に署名して保険会社に返送するよう求めます。

被害者が保険会社の提示額に同意して、示談書に署名すると示談が成立します。

被害者から示談書が届くと保険会社が被害者に対して賠償金を支払って、交通事故の紛争は解決します。

他方、保険会社が提示した賠償金に被害者が納得しない場合、被害者から保険会社に対し、対案を示す等して増額を求めることもできます。

しかし、話合いによって両者が折り合うことができず、示談が決裂すると、被害者が加害者側に賠償金を支払わせるために訴訟提起等の手続きをとらなければなりません。

そして、訴訟になると、賠償金を請求する被害者の側が、自らの主張が正しいことを証拠によって証明する義務を負うため、証拠がない場合、被害者が負けてしまいます。

そこで、示談が決裂する前に弁護士に相談されることをお勧めします。

収入の減少がない場合の逸失利益(その2)

前回のブログでご紹介しましたように、現在の裁判実務においては、交通事故の被害者に後遺症が認められるとしても、交通事故に遭う前の収入と比較して症状固定後の収入が減少していない場合、逸失利益が認められるためには、「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在」について主張立証する必要があると考えられています(昭和56年12月22日最高裁判所第3小法廷判決)。

「特段の事情」とは何でしょうか?

上記の最高裁判所判決は、「特段の事情」として次の2つの例を挙げています。

「事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合」

「労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合」

このような考え方を踏まえ、以下のような具体的な事情があれば、減収のない被害者であっても、逸失利益の発生を主張していきたいところです。

・鎮痛剤を服用する、負傷部位に湿布を貼ったり、サポーターを装着する、こまめに休憩をとったり、ストレッチする、症状固定後も治療を続ける等して、痛みを抑えて稼働している。

・週末は療養に充てる、症状悪化を招く通勤ラッシュを避けるために早朝出勤する、タクシーを利用して通勤する等して、稼働に備えている。

・残業、休日出勤、休憩時間を削る等して、業務効率の低下をカバーして収入を維持している。

・会社役員なので減収はないものの、任期満了後、役員の重任がなされない可能性がある。

・後遺症により運転ができず、外勤から内勤へ配転された。

・同期より出世が遅れた。

収入の減少がない被害者の方も、弁護士にご相談ください。

収入の減少がない場合の逸失利益

交通事故により負傷した被害者に後遺障害が残った場合、逸失利益の請求の可否について検討します。

逸失利益とは、後遺障害により就労が制限されたことに基づき、得られたはずの収入を失ったことによる損害をいいます。

では、交通事故に遭う前の収入と比較して症状固定後の収入が減少していない被害者は、逸失利益が認められないのでしょうか。

最高裁判所の判決は、腰部挫傷後遺症(14級相当)を残した事案について、「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。ところで、被上告人は、研究所に勤務する技官であり、その後遺症は身体障害等級14級程度のものであつて右下肢に局部神経症状を伴うものの、機能障害・運動障害はなく、事故後においても給与面で格別不利益な取扱も受けていないというのであるから、現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難いというべきであり、それにもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである」としました(昭和56年12月22日最高裁判所第3小法廷判決)。

この判決以降、多くの裁判例は、症状固定後の収入が減少していない場合であっても「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益計を肯認するに足りる特段の事情」を主張立証することによって、逸失利益を認めています。

他方、平成28年3月8日神戸地方裁判所判決は、水道局に勤務する公務員が交通事故により股関節の機能障害(12級7号)の後遺障害を残した事案について、「本件事故後、本件事故を原因とする減収はないことが認められ、その他本件全証拠を検討しても、本件事故による後遺障害を理由に、職務遂行に支障が生じている具体的な事情(なお、●(注記:被害者)は、その証人尋問において、水道管のねじを締める際に、他の職員による援助を受けているなどと供述しているが、この程度をもって職務遂行に支障が生じているとまでは認めることができない。)や、昇進や昇級において不利になる蓋然性があるとは認められず、後遺障害逸失利益を認めることはできない」と判示しました。

後遺障害が残存しても収入の減収がない被害者は、弁護士にご相談ください。

民事裁判手続のIT化(公示送達の方法)

弁護士や大学教授らを委員とする法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会は、令和2年6月から、民事裁判手続のIT化に向けて議論を重ね、訴え提起、準備書面の提出、送達、口頭弁論、証拠調べ、証人尋問、判決、和解、訴訟記録の閲覧等、あらゆる場面でインターネットを用いる方法が検討されています。

公示送達の方法について、現行の民事訴訟法111条は、「公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。」と定めています。

IT化関係部会においては、裁判所がインターネットにより情報を公示することに加え、書記官が裁判所の掲示場に掲示するか、又は裁判所に設置した端末でその内容を閲覧することができる状態にするという方法が提案されています。

これは、インターネットを利用していない人が送達を受ける機会を失うことになりかねないことを考慮し、裁判所に赴けばその情報を得られるにようにすべきという提案です。

この提案に対し、同部会では、日本全国の支部を含む地方裁判所すべてに赴くことは非現実的であり、掲示場における掲示を残す必要はないという意見も示されたようです。

裁判所に行くと、掲示場に掲示された公示送達が目に留まりますが、実際にこれをみた被告が訴状を受領する例はほとんどないものと思われます。

インターネットによる公示のほうが、少しは実効性が上がるのでしょうか。

被害車両の所有権のない使用者による代車料の請求権

交通事故により車両に物損が生じた場合、原則として、所有権を侵害された被害車両の所有者が加害者に対して物損の賠償請求権を取得します。
ところが、事故に遭った被害者が被害車両をローンで購入して使用していたり、リースにより使用していた場合、被害車両の自動車検査証には、「所有者」欄に被害者ではなく販売会社、信販会社、リース会社等が記載され、「使用者」欄い被害者の氏名が記載されていることが多く、被害者は車両の所有者ではありません。
そのため、所有者でない被害者による物損の賠償請求訴訟では、請求権の有無が争われることがあります。


物損の種類は、修理費、評価損、時価額等の車両の破損それ自体の損害の他、レッカー代金や代車料等が考えられ、物損の種類により、裁判所の結論は異なります。

例えば、評価損は、車両の交換価値の低下による損害であり、車両の交換価値を把握している所有者のみに請求権があるとする裁判例が多いです。

一方、代車料は、車両の修理や買替えに伴って車両を使用できないことによる損害といえるので、所有権がなくても使用権を侵害された使用者が請求し得るとする裁判例が多いです。


例えば、平成25年8月7日東京地方裁判所判決は、リース会社からリースを受けて会社の営業に使用していた被害車両につき、次のように判示しました。

「コンピュータソフトウェアの開発等を業とする原告会社は、平成22年9月16日、BMWの販売会社である株式会社C(以下「C」という。)を介して,A株式会社(以下「訴外会社」という。)から原告車のリースを受けたこと(リース期間4年間、リース料毎月24万6750円)、原告会社の実質的経営者である原告X1は、原告車を営業等に使用していたこと、原告会社は、本件事故発生後、原告車の修理をCに依頼し、修理期間中、Cから代車としてBMWの提供を受け(平成23年7月17日から同年8月7日までは日額3万9700円(車種X5)、同月8日から同月26日までは日額2万8000円(車種X1 1.8l)、同月27日から同年9月16日までは日額5万円(車種Active Hybrid7))、従前と同様に使用していたこと、原告会社は、Cから代車料を請求されたが、本件訴訟中の支払を猶予されたこと、以上の事実が認められる。     

これらの事実によれば、原告会社は、原告車の修理が完了する前に、代車を使用する必要から、代車の有償提供を受け,現実にこれを使用し、代車料の支払債務を負担したものであり、その支払が現実に見込まれない事情は認められないから、代車費用の相当額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

そして、代車費用の額としては、本件事故の内容、原告車の種類、従前の使用状況、原告車の損傷状態と修理内容、代車使用の必要性の程度等を考慮し、日額2万円×35日間=70万円の限度で相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。」

「追い越す」と「追い抜く」と「追い抜かす」

「追い越す」と「追い抜く」と「追い抜かす」の3つの言葉を使い分けていますか。

「追越し」とは、道路交通法第2条第21号に「車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ること」と規定されています。

「追い抜く」は、道路交通法の言葉ではありませんが、裁判実務においては、進路変更を伴う「追越し」と区別して、進路変更を伴うことなく(車線を変えないで)前方を走行する車より前に出ることをいいます。

「追い抜かす」という言葉は、私はふだん使うことがなく、大辞林にも載っていませんが、「追い抜く」との違いが気になり、ググってみました。

どうやら、追い抜くとほとんど同じ意味で用いられ、若い人ほど「追い抜かす」の使用率が高いようです。

交通事故による負傷、死亡等と労災保険給付

労働者が仕事中または通勤中に交通事故に遭って負傷、死亡等した場合、被災労働者やその遺族等は、労災保険給付の請求をすることができます。
保険給付を受けるためには、その保険給付に応じた所定の保険給付請求書に必要事項を記載して、被災労働者の所属事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出します。
そして、「業務災害」または「通勤災害」にあたると判断されると、各種の労災保険給付が実施されます。

被災労働者が受ける労災保険給付は、次の7種類です。
なお、かっこ書きは、通勤災害の場合の保険給付の名称です。
⑴ 療養補償給付(療養給付)
⑵ 休業補償給付(休業給付)
⑶ 障害補償給付(障害給付) ※障害が残った場合
⑷ 遺族補償給付(遺族給付) ※死亡した場合
⑸ 葬祭料(葬祭給付)    ※死亡した場合
⑹ 傷病補償年金(傷病年金) ※障害が残った場合
⑺ 介護補償給付(介護給付) ※障害が残った場合

 

仕事中または通勤中に交通事故に遭って負傷等した場合、事故の相手の過失が大きいときは事故の相手が加入する保険会社が治療費等を支払うことが多く、労災保険給付を請求する必要がないケースもあります。

しかし、加害者に対する損害賠償と労災保険給付との関係上、労災保険給付を受けるべきケースもあります。

仕事中または通勤中に交通事故により負傷した被害者は、弁護士にご相談ください。

死亡事故における逸失利益と生活費控除率(その2)

前回ご紹介しましたように、裁判実務では、死亡事故における逸失利益の計算に用いられる生活費控除率は、概ね、次のように考えられています。

1 一家の支柱(被扶養者が1人の場合):40%

2 一家の支柱(被扶養者が2人以上の場合):30%

3 男性(独身・幼児を含む):50%

4 女性(主婦・独身・幼児を含む):30%

ただし、兄弟姉妹のみが相続人のときは、別途考慮されます。

 

控除されるべき生活費は、被害者個人の生活費であって、被害者が扶養する家族の生活費は含まれませんが、一家の支柱の生活費控除率が独身男性より低い理由は、扶養すべき妻子がいる男性は、独身のときより自分のための消費を抑えるであろうと考えられるからです。

また、上記の基準の背景には、当時の平均的な家庭として、一家の支柱である男性が外で働いて妻と数人の子どもを扶養し、主婦である女性が家事に従事して子どもたちの世話をするものと捉えられていた事情があります。

こにような家庭であれば、上記の基準は、交通事故によって夫を失った妻や、父親を失った子どもの将来の生活保障に資するといえます。

また、独身女性の生活費控除率を独身男性より低くすることによって、男女間の収入格差を調整する機能を果たしているともいえます。

 

しかし、上記の基準が採用された当時から社会情勢は変化しており、離婚の増加、男女間の収入格差の減少等の事情を考慮すると、男性よりも女性の生活費控除率を低くすることの合理性は失われつつあるという見方もあります。

こうした観点から、例えば、共働き夫婦の一方、被扶養者のいない高額の収入を得ている女性、離婚後に母親と暮らす未成年の子どもに養育費を支払っていた父親等、上記の基準が妥当しないケースも考えられます。

東京地方裁判所平成15年11月25日判決は、公務員の独身女性(事故当時32歳)の生活費控除率について、60歳で定年退職するまでは男性と同様の給与を得たであろうことを考慮して5割とし、61歳から67歳までは3割としました。

死亡事故における逸失利益と生活費控除率

死亡事故における逸失利益は、次の計算式によって算定されます。

基礎収入額 ✕ (1-生活費控除率) ✕ 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

すなわち、被害者が死亡しなければ就労したであろう期間における収入から、生活費相当額と中間利息相当額を控除します。

 

生活費相当額の計算方法として、被害者の生前の生活費を証拠に基づいて計算する方法、統計資料を利用して計算する方法等が考えられます。

しかし、このような計算は煩雑ですから、裁判実務においては、損害賠償額を迅速に算定する観点から、被害者の性別、扶養者の有無、扶養者の人数等を考慮して、収入額に対する一定の割合を生活費とみなす方法を採用して、定型化を図っています。

この収入額に対する一定の割合のことを生活費控除率といいます。

 

生活率控除率は、概ね、次のように考えられています。

1 一家の支柱(被扶養者が1人の場合):40%

2 一家の支柱(被扶養者が2人以上の場合):30%

3 男性(独身・幼児を含む):50%

4 女性(主婦・独身・幼児を含む):30%

ただし、兄弟姉妹のみが相続人のときは、別途考慮されます。

 

もっとも、上記の生活費控除率は、予め定められたものではありません。

そのため、例えば、被害者死亡後に被害者が扶養していた父が死亡したケース、事故時に被害者が婚約していたケース、被害者死亡後に子が誕生したケース等、上記の生活費控除率が妥当しないと争われることがあります。

他方で、例えば、独身男性が将来父母を扶養していく立場にあったこと等を考慮して、その生活費控除率は50%ではなく40%とされた裁判例もあります。

生活費控除率は、被害者の具体的な事情を考慮して個別に決せられるべきものですから、弁護士に相談されるとよいと思います。

高次脳機能障害の後遺障害等級

交通事故の被害者に脳外傷による高次脳機能障害が残存した場合、自賠責保険に対して後遺障害の申請をして後遺障害等級が認定されると、一定の保険金(賠償金)が支払われます。

高次脳機能障害の後遺障害等級の内容とその保険金額は、次のとおり、自動車損害賠償保障法施行令2条の別表第一と別表第二に定められています。

 

等級

後遺障害

保険金額

(別表第一)

1級1号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの

4,000万円

(別表第一)

2級1号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの

3,000万円

(別表第二)

3級3号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの

2,029万円

(別表第二)

5級2号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

1,574万円

(別表第二)

7級4号

神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの

1,051万円

(別表第二)

9級10号

神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

616万円

 

高次脳機能障害の後遺障害の内容は、抽象的で曖昧なので、被害者の障害が1級から9級のどの等級に該当するかの判断は、しばしば困難を伴います。

被害者の症状により仕事や日常生活に支障をきたす程度に応じて等級が左右されますから、後遺障害の申請書類の記載には十分に注意しなければなりません。

適切な等級が認定されるためには、高次脳機能障害に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

高次脳機能障害

1 高次脳機能障害とは

高次脳機能障害は、脳卒中、脳炎等、外傷による脳の受傷以外を原因として発生することもあります。

自賠責保険における後遺障害の対象となる高次脳機能障害は、交通事故によって、脳外傷(脳損傷)を負い、意識障害が一定期間継続した被害者について、認知障害、行動障害、人格障害が認められ、仕事や日常生活に支障をきたす障害です。

 

2 高次脳機能障害の典型的な症状

自賠責保険が指摘する高次脳機能障害の典型的な症状は、以下のようなものです。

①認知障害

・新しいことを覚えられない

・気が散りやすい

・行動を計画して実行することができない

②行動障害

・周囲の状況に合わせた適切な行動ができない

・複数のことを同時に処理することができない

・職場や社会のマナーやルールを守ることができない

・話が回りくどく要点を相手に伝えることができない

・行動を抑制できない

・危険を察知して回避することができない

③人格変化

・自発性低下、気力の低下

・衝動性

・易怒性、感情易変

・自己中心性

 

3 高次脳機能障害が見逃されないために

高次脳機能障害は、被害者に残存する症状によって仕事や日常生活に支障をきたす程度に応じて、1級から9級まで6段階もの等級に分かれます。

適切な等級の見極めが困難である上、高次脳機能障害は、医師、被害者本人、被害者の家族や介護者によっても見過ごされやすい後遺障害といわれています。

高次脳機能障害が疑われる場合、高次脳機能障害の後遺障害を申請する場合は、高次脳機能障害に精通した弁護士にご相談ください。