東京の紅葉は見頃を迎え、出勤途中の銀杏並木も黄金色に染まっているので、毎朝、つい足を止めてしまいます。
さて、自動車損害賠償保障法は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」、「運行」とは「自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。」と定めています。
そこで、 自賠責保険会社に被害者請求(16条請求)や加害者請求(15条請求)をする場合、車両を走行させず、駐停車させて荷物の積み降ろし中に事故が起きた場合、「運行によって」にあたるかが問題となることがあります。
例えば、昭和56年11月13日最高裁判所第3小法廷判決は、AとBが集荷した古電柱を積載したトラックを材料置場に駐車させたまま昼食を済ませ、約1時間後に古電柱の荷降ろし作業を開始したところ、その1本が荷台から落下し、Vがその下敷きとなって死亡した事故について、「運行によって」生じたものとはいえないと判示し、X1(電々公社等から電話架設工事等の発注を受けている会社)、X2(X1の下請会社より古電柱の集荷作業を請け負った会社)、X3(X2の孫請け会社であり、AとBを古電柱の積み降ろし作業員として雇い入れた)のY自賠責保険会社に対する保険金請求を認めませんでした。
他方で、昭和63年6月16日最高裁判所第1小法廷判決(最高裁判所裁判集民事154号177頁)は、(1)製作所敷地内を通行中のⅤ(当時6歳)が、材木の下敷きになって死亡した。(2)同材木は、Aがトラックの荷台上に積載して同製作所に運搬してき8本の一部であって、同製作所の経営者であるXが、その荷降ろし作業をするため、フォークリフトを同トラックの側面に横付けし、フォークリフトを用いてこれを荷台上から反対側面下の材木置場に突き落としたものである。(3)本件トラックは、木材運搬専用車であって、その荷台には木材の安定緊縛用の鉄製支柱のほかフォークリフトのフォーク挿入用の枕木等が装置されており、その構造上フォークリフトによる荷降ろし作業が予定されている車両であるところ、本件事故は、Xが前記フォークリフトのフォークを枕木により生じている材木と荷台との間隙に挿入したうえ、フォークリフトを操作した結果、発生したものである、という事故について、このような事実関係のもとにおいては、枕木が装置されている荷台は、本件トラックの固有の装置といえ、また、本件荷降ろし作業は、直接的にはフォークリフトを用いてされたものであるにせよ、併せて右荷台をその目的に従って使用することによって行われたものというべきであるから、本件事故は、本件トラックを「当該装置の用い方に従い用いること」によって生じたとして、XのY自賠責保険会社に対する保険金請求を認めました。
このように、最高裁判決は、荷物の積み降ろし作業であることから、一律に「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」にあたらないと判断しておらず、積み降ろしにあたって、当該自動車の固有装置と評価される装置を使用されているか、事故はこの装置を使用することによって発生したといえるかを検討し、前者の判決については、荷台が「当該装置」に当たるとしても、ダンプカー等と異なり、荷台を「操作」するものでなく、また、駐車させたまま約1時間経過後の荷降ろし作業中の事故であり、駐車前後の走行との連続性に欠けるといった事情が重視されたものと評されています(最高裁判所判例解説民事篇昭和63年度(11)参照)。