車を駐停車させて荷降ろし中の事故(もう1つの最高裁判決)

全国的に寒い日が続く中、東京法律事務所の執務室の空調が壊れてしまい、修理が終わるまで室内でもコートが必須でした。

さて、前回、車を駐停車させて荷降ろし中の事故について、結論が異なる2つの最高裁判決をご紹介しましたが、両判決の判断が分かれた理由が分かりにくいため、今回は、もう1つ、最高裁判決をご紹介します。
なお、この判決は、前回ご紹介した昭和63年6月16日最高裁判所第1小法廷判決(最高裁判所裁判集民事154号177頁)と同時に言い渡されました。

昭和63年6月16日最高裁判所第1小法廷判決( 最高裁判所民事判例集42巻5号414頁)は、(一)T事務所前の道路上において、X運転のV車(軽四輪貨物自動車)とT事務所の従業員A運転のフォークリフト(以下「本件フォークリフト」という。)のフォークとが衝突し、Xは脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を負って両眼が失明した(以下「本件事故」という。)、(二)Yは、大型貨物自動車(以下「本件車両」という。)を所有して運送業を営んでいたところ、依頼された角材を本件車両に積載してT事務所前に到着し、これをT構内の作業所に搬入しようとしたが、本件車両を右作業所前の空地に駐車することができなかったので、Bと打ち合わせて、これをTとは反対側の道路端に駐車させ、本件フォークリフトで角材をTの作業所内に搬入することとした、(三)このため、歩車道の区別のない幅員四・五メートルの道路の有効幅員は約二・五メートルに狭められた、(四)Yにおいて本件車両の荷台上でその側方を通過する車両の有無を監視する態勢をとり、Bにおいて本件フォークリフトを運転して、荷降ろし作業を開始した、(五)三回目の荷降ろしのため、Bが、長さ約一・五メートルのフォークが路上に突き出る位置まで進めて本件フォークリフトを前記空地に一旦停止させ、本件車両の荷台の位置に合わせるためにYの指示に従いフォークの高さを調整していたところ、本件車両に気をとられて前方注視をせずその左側を通過しようとしたXの運転するV車と前記のとおり衝突した、(六)本件車両は、木材運搬に使用する貨物自動車で、その荷台にはフォークリフトのフォークを挿入するため多くの枕木(角材)が装置されており、フォークリフトによる荷降ろし作業が当然予定されている車両である、という事故について、「法(※自動車損害賠償保障法)三条の損害賠償責任は、自動車の「運行によって」、すなわち、自動車を「当該装置の用い方に従い用いることによって」(法二条二項)他人の生命又は身体を害したときに生じるものであるところ、前記の事実関係によれば、本件事故は、Xが、V車を運転中、道路上にフォーク部分を進入させた状態で進路前方左側の空地に停止中の本件フォークリフトのフォーク部分に被害車を衝突させて発生したのであるから、本件車両がフォークリフトによる荷降ろし作業のための枕木を荷台に装着した木材運搬用の貨物自動車であり、Yが、荷降ろし作業終了後直ちに出発する予定で、一般車両の通行する道路に本件車両を駐車させ、本件フォークリフトの運転者森と共同して荷降ろし作業を開始したものであり、本件事故発生当時、本件フォークリフトが三回目の荷降ろしのため本件車両に向かう途中であったなどの前記の事情があっても、本件事故は、本件車両を当該装置の用い方に従い用いることによって発生したものとはいえない」と判示しました。

同判決について、本件事故の特徴は、Xの前方不注視により、X運転のV車が本件車両とは別の車両であるフォークリフトに衝突したものであって、本件車両に衝突したものではなく、本件車両の常軌を逸した動静がV車を運転していたXに対して衝突にも比すべき影響を及ぼしたものでもない点にあるとして、本件事故態様に照らすと、運行と本件事故との相当因果関係を認めることはかなり困難ではなかろうかと評されています(最高裁判所判例解説民事篇昭和63年度(11)参照)。