玉突き事故の過失割合①

3台以上の車が追突する事故のことを、玉突き事故といいます。比較的、高速道路上で起きることが多いですが、公道上であっても、速度が出ているときには玉突き事故になり易いです。

単なる追突事故の場合には、基本的には、追突した側の車両に100%の過失があります。ただ、玉突き事故の場合には、そうでないこともあるので、具体的な事故状況に応じて過失割合を検討する必要があります。

まず、最後尾の車が最初に追突した場合、過失割合は、先頭車0:中間車0:最後車100となるのが通常です。

しかし、事故の原因が追突された側にもある場合は、追突された側の車にも過失が生じます。

例えば、中間車が急ブレーキを掛けたことにより、最後車が中間車に追突し、その勢いで中間車が先頭車に追突した場合には、先頭車0:中間車30:最後車70となります。

また、先頭車が急ブレーキを踏んだため、中間車も急ブレーキを踏んだ結果、最後車が中間車に追突して玉突き事故になった場合には、先頭車30:中間車0:最後車70となります。

このように、先頭車や中間車が急ブレーキを掛けた場合には、過失割合が大きく変わることがあるため、注意が必要です。

玉突き事故に巻き込まれ、過失割合が問題になったときには、弁護士に相談することをお勧めします。

通院付添費について

交通事故により通院する際、骨折で一人で歩けない、被害者が子供である等の事情で、ご家族が通院に付き添うことがあります。特に、仕事を休んだり、遅刻・早退して付き添いをしたような場合には、ご家族の負担は大きくなります。このような付き添い費用は、相手方保険会社から賠償されるのでしょうか。

裁判所の考え方では、「症状または幼児等必要と認められる場合には被害者本人の損害として肯定される。この場合1日につき3300円。」が基本とされています。

裁判例では、左足関節から足背の疼痛、しびれ等(後遺障害等級12級13号)が残存した女性(症状固定時56歳)について、RSDが疑われる疼痛が出現していたことに照らし、夫の送迎について、日額3300円、76日間の通院付添費を認めたものがあります(東京地判平成26年11月17日)。

また、幼児については、母親が5歳の男児の通院に付き添った事案につき、日額3300円、16日間の通院付添費を認めた裁判例があります(横浜地判令和4年4月13日)。

付き添いが必要かどうか微妙な事案では、症状等を具体的に主張・立証する必要がありますので、お困りの方は、弁護士に相談することをお勧めします。

入院付添費について

交通事故等で入院された場合、ご家族が仕事を休んで付き添いされるケースがあります。付き添いのために仕事を休んだ分の休業損害について、相手方保険会社と揉めることが少なからずあります。

裁判所の考え方では、「医師の指示または受傷の程度、被害者の年齢等により必要があれば職業付添人の部分には実費全額、近親者付添人は1日につき6500円が被害者本人の損害として認められる。」とされています。

入院施設のある病院は、完全看護(付添人なしで看護師がすべて看護すること)のことが多いため、医師が付き添いを指示することは、多くはありません。

ただ、病院の状況によっては、看護師が24時間体制で付き添いできるとは限らないため、身の回りの世話をするため、付き添いの必要性が認められることがあります。

裁判例では、被害者が亡くなった事案や、高い後遺障害等級が認定された事案では、医師の指示がなくても、入院付添費が認められるケースが多いです。

ただ、低い後遺障害等級でも入院付添費が認定されたケースはあります。

例えば、左膝関節機能障害(12級7号)の女性(事故当時90歳)につき、入院期間の3分の1について、入院付添費を認めた裁判例があります(京都地判令和3年8月10日)。

入院付添費を請求するには、症状の程度等、様々な主張をすることが求められますので、弁護士に相談することをお勧めします。

入院中の特別使用料について

交通事故で入院することとなった場合、病院から「個室にしますか、それとも大部屋にしますか」、と聞かれることがあります。

そこで、安易に個室を選ぶと、後々、相手方保険会社から個室の特別使用料が支払われないことがあるので、注意が必要です。

裁判所の考え方では、「医師の指示ないし特別の事情(症状が重篤、空室がなかった等)」があれば、損害賠償の対象となります。

そのため、このような事情がなければ、個室に入院したとしても、その特別使用料は相手方保険会社から支払われず、高額な特別使用料を自己負担しなければならない可能性が高くなります。

個室を使用するかどうか、判断に迷った際は、ひとまず事前に相手方保険会社に確認した方が無難です。

裁判例では、後遺障害等級併合7級の男性につき、個室の特別使用料を認めたもの(東京地判平成28・11・17)、医師の指示はないものの、治療のために口をワイヤーで固定されて話すことができず、食事も流動食が続いていた事案で個室の特別使用料を認めたもの(大阪地判平成27・7・2)があります。

個室の特別使用料については、相手方保険会社と揉めることも少なくないので、弁護士に相談することをお勧めします。

後遺障害慰謝料とは

1 後遺障害慰謝料

 後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残存したことに対する精神的苦痛を補償するものです。これは、原則、後遺障害が認定されなければ、支払われません。そのため、後遺障害が認定されるかどうか、どの等級が認定されるかがとても大事です。

 後遺障害が認定されても、されなくても、支払われるものとして、入通院慰謝料があります。これは、入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛を補償するものです。

22後遺障害慰謝料の金額と後遺障害等級

 後遺障害慰謝料の金額は、障害の程度を示す後遺障害等級によって大きく変わります。日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「赤い本」によると、後遺障害慰謝料の金額は次のように設定されています(金額は級によって異なります)。

1級:2800万円、2級:2370万円、3級:1990万円、4級:1670万円、5級:1400万円、6級:1180万円、7級:1000万円、8級:830万円、9級:690万円、10級:550万円、11級:420万円、12級:290万円、13級:180万円、14級:110万円

3 後遺障害の認定と専門家の重要性

後遺障害の等級が高いほど、後遺障害慰謝料の金額も大きくなるため、適正な後遺障害が認定されることが非常に重要です。認定が適切に行われないと、本来受け取るべき適切な賠償を逃してしまう恐れがあります。そのため、後遺障害の申請については、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

むちうちの後遺障害

1 むちうちによる後遺障害認定の可能性
 むちうちは、例えば信号待ちで停車している際に追突されたときなど、首が鞭のようにしなることで発生します。このとき、首や腰に痛みが出ることが一般的です。そして、治療を続けても痛みが残る場合、加害者の自賠責保険に後遺障害認定の申請をすることができます。むちうちの場合、主に「後遺障害等級12級13号」または「14級9号」が認定される可能性があります。

2 後遺障害等級12級と14級の違い
 後遺障害等級12級13号は、「局部に頑固な神経症状を残す場合」に認定されます。例えば、画像上、骨折後に骨の癒合が不完全で、骨が神経を圧迫して疼痛が出ていることが明らかな場合などがこれに該当します。一方で、後遺障害等級14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」として定められており、レントゲンやMRIでは異常が見られなくても、事故による神経症状が継続していることが医学的に説明可能な場合に認定されます。

3 弁護士に相談
 交通事故に遭った場合、早期の対応が重要です。例えば、MRIの撮影や神経学的検査を行わないと、本来認定されるべき後遺障害が認定されない可能性があります。そのため、事故遭った際には、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

脊髄損傷による後遺障害

1 脊髄損傷とその症状
 交通事故に遭って脊髄を損傷すると、重い後遺症が残ってしまうことが多いです。脊髄は運動や感覚を制御する神経の中心地であり、ここが傷つくと、麻痺など深刻な症状が現れることがあります。これは、一時的なものから、時には永久的な影響を及ぼすこともあります。例えば、感覚の喪失、運動能力の低下、筋力の減少、首や背中の痛みなどが挙げられます。

2 後遺障害等級とその重要性
 自賠責保険においては、症状の重さに基づいて、1級から14級までの後遺障害等級が設定されています。脊髄損傷に関連する等級は、1級から12級までで7つのカテゴリーがあります。たとえば、1級の場合、裁判基準による後遺障害慰謝料は約2800万円となりますが、12級では約290万円となります。これらの等級は、慰謝料などの賠償金に大きな影響を与えるため、適切な等級の認定が重要です。

3 認定を受けるためのポイント
 適切な後遺障害等級を受けるためには、いくつかの重要なポイントがあります。

 まず、早期にMRI撮影を行うことが大切です。脊髄損傷は、骨折を伴う場合と伴わない場合があり、骨折がない場合は、MRIでしか損傷を確認できないことが多いです。

 次に、早期の神経学的検査を受けることが重要です。これには、反射テストや徒手筋力テストなどがあります。これらは、脊髄損傷の証明に非常に役立ちます。

 さらに、適切な後遺障害診断書の作成が必要です。診断書に記載されていない症状は、自賠責保険の審査で考慮されないため、症状はしっかり記載することが必要です。

 脊髄損傷はちょっとしたことで賠償金が大きく変わるため、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

弁護士費用特約について

1 弁護士費用特約とは
 相手方保険会社との示談交渉を弁護士に依頼する場合、どうしても弁護士費用が掛かります。この費用は基本的には被害者が負担しなければなりません。

 ただ、ここで役立つのが「弁護士費用特約」です。これは、交通事故の被害者が弁護士に交渉などを依頼した際、その費用を保険がカバーしてくれます。つまり、この特約があれば、多くの場合は弁護士のサポートを受けることが経済的負担なく可能になります。

2 弁護士費用特約の付いている保険
 多くの場合、この特約は自動車保険に含まれていますが、火災保険や生命保険、傷害保険にも付いていることがあります。さらに、ご家族が加入している保険にこの特約がある場合、それを利用することもできます。そのため、家族全員の保険内容をチェックすることをお勧めします。

3 特約の利用上限額
 通常、弁護士費用特約の上限は300万円とされています。多くの場合、この金額内で弁護士報酬はカバーできます。ただし、後遺障害の等級が認定されるなど、賠償金額が2000万円から3000万円を超えるような大きな案件では、この上限を超えることもあり得ます。

 被害者が複数の場合、例えばご家族3名が事故に遭った場合、それぞれに300万円の上限が適用され、合計で最大1200万円までカバーされます。

4 特約利用時の等級変動
 弁護士費用特約を利用しても、保険の等級が下がることは通常ありません。そのため、翌年以降の保険料に影響を与えることはなく、安心して利用することができます。弁護士費用特約の利用ができる場合には、弁護士に相談してみることをお勧めします。

治療費の一括対応とは

 交通事故の被害者が治療を受ける際、治療費の支払いは誰がどのようにするのでしょうか。ここでは、加害者の加入している任意保険会社が医療費を直接病院へ支払う「治療費の一括対応」について説明します。

 まず、自動車保険の基本を理解しましょう。自動車保険には二つの種類があります。一つは法律で加入が義務付けられている自賠責保険、もう一つは任意で加入する任意保険です。自賠責保険は、人がケガをした際に最大120万円まで補償を行います。これを超える損害は任意保険がカバーすることになります。

 原則として、被害者はまず病院に治療費を支払い、その後、自賠責保険から支払いを受けるのが基本です。しかし、この場合、加害者側の任意保険会社の立場からすると、任意保険会社は早いタイミングで被害者に直接接触できず、治療期間が長引いて高額の賠償金を請求されるリスクがあります。

 そこで任意保険会社は、賠償金の額を抑えるため、治療費を直接医療機関に支払い、被害者と早期に接触する方法を取ります。これにより、任意保険会社が医療機関に支払った治療費は、後に自賠責保険に請求されます。

 結果として、被害者が自賠責保険と任意保険会社から支払いを受ける手続きを、任意保険会社が代わりに行うことを「治療費の一括対応」と呼びます。

 被害者側の立場からすると、一括対応のメリットとして、病院で治療費を支払わなくてもよいことが挙げられます。

 しかし、早いタイミングで任意保険会社から治療費の支払いの打ち切りを打診される可能性があるなど、デメリットもあります。打ち切り後は自腹で通院することも可能ですが、あきらめて通院を止めてしまう方も多いです。

 一括対応の打ち切りでお困りの方は、弁護士などの専門家に一度相談してみることをお勧めします。

麻痺が残った場合に認められる後遺障害③

 麻痺が残った場合に相手方保険会社に請求しうる主な損害項目は、以下のとおりです。
1 治療費
 交通事故によって脳や脊髄が損傷した場合、入院や通院のために多額の治療費が掛かります。症状固定日までに掛かった必要かつ相当な治療費は、加害者に請求することができます。 

2 休業損害
 脳や脊髄が損傷した場合には、休業を余儀なくされるのが通常です。休業によって減収が生じた場合、有給を取得した場合には、加害者に休業損害を請求することができます。

3 入通院慰謝料
 脳損傷や脊髄損傷で入通院を余儀なくされることにより、被害者の方は大きな精神的苦痛を被ります。その苦痛を保障するものとして、入通院期間に応じた慰謝料を加害者に請求することができます。

4 後遺障害慰謝料
 麻痺による後遺障害が残った場合、それによる精神的苦痛を保障するものとして、後遺障害等級に応じた慰謝料を加害者に請求することができます。麻痺によって認定される可能性のある後遺障害等級は、〇級から〇級まであります。不当に低い等級しか認定されないと、その分、後遺障害慰謝料も減ってしまいます。

5 逸失利益
 麻痺による後遺障害が残った場合、仕事に大きな支障が生じて、将来の所得が減少することが通常です。将来の所得を保障するものとして、逸失利益を加害者に請求することができます。労働能力喪失率は後遺障害等級によって変わるため、低い等級しか認定されないと、逸失利益も減ってしまいます。


6 将来介護費
 麻痺によって寝たきりになるなど、将来にわたって介護が必要な状態となってしまうことがあります。そのような場合には、将来にわたって掛かるであろう介護費用を加害者に請求できます。

 以上のとおり、加害者側に請求し得る損害項目には様々ありますが、特に、後遺障害慰謝料、逸失利益、将来介護費の金額は大きくなります。加害者側に賠償請求をする際には、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

麻痺が残った場合に認められる後遺障害②


 麻痺が残った場合に認定される可能性のある後遺障害等級は7つあります。

 1つ目は、自賠法施行令別表第一・第1級1号です。これは「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要する」場合に認定されます。具体的には、①高度の四肢麻痺が認められるもの、②高度の対麻痺が認められるもの、③中程度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの、④中程度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するものがこれに該当します。

 2つ目は、自賠法施行令別表第一・第2級1号です。これは「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,随時介護を要する」場合に認定されます。具体的には、①中等度の四肢麻痺が認められるもの、②軽度の四肢麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの、③中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するものがこれに該当します。

 3つ目は、自賠法施行令別表第2・第3級3号です。これは「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができない」場合に認定されます。具体的には、①軽度の四肢麻痺が認められるものであって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの、②中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないものがこれに該当します。

 4つ目は、自賠法施行令別表第二・第5級2号です。これは「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができない」場合に認定されます。具体的には、①軽度の対麻痺、②一下肢の高度の単麻痺がこれに該当します。

 5つ目は、自賠法施行令別表第2・第7級4号です。これは「神経系統の機能または精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの。一応労働することはできるが,労働能力に支障が生じ,軽易な労務にしか服することができない」場合に認定されます。具体的には、一下肢の中等度の単麻痺がこれに該当します。

 6つ目は、自賠法施行令別表第二・第9級10号です。これは「神経系統の機能または精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの。通常の労働を行うことはできるが,就労可能な職種が相当程度に制限される」場合に認定されます。 具体的には、一下肢の軽度の単麻痺がこれに該当します。

 7つ目は、自賠法施行令別表第二・第12級13号です。これは「局部に頑固な神経症状を残す」場合に認定されます。具体的には、①運動性,支持性,巧緻性および速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの、②運動障害は認められないものの,広範囲にわたる感覚障害が認められるものがこれに該当します。

 このように、麻痺が残った場合に認定され得る後遺障害等級には幅があります。後遺障害等級によって賠償金は大きく変わりますので、早いタイミングで弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

体に麻痺が残った場合に認められる後遺障害①


1 麻痺の原因
 交通事故によって外傷を負った場合、筋肉が硬直する、筋肉が弛緩する、知覚が鈍くなるといった麻痺が残ることがあります。麻痺が残る原因は、大きく分けて2つあります。

 1つ目は、外傷性脳損傷です。外傷性脳損傷を原因とする麻痺は、主に随意運動を制御している前頭葉の後部が損傷を受けることで生じます。右の前頭葉後部を損傷すると体の左側に麻痺が生じ、左の前頭葉後部を損傷すると体の右側に麻痺が生じます。両方を損傷すると体の両側に麻痺が生じます。

 2つ目は、脊髄損傷です。脊髄損傷を原因とする麻痺は、脳と末梢神経管の信号を伝達する中枢神経が傷つき、信号が途中で阻害されることで生じます。外傷性脳損傷や脊髄損傷によって麻痺が残ってしまった場合、麻痺の種類、麻痺の程度に応じて認定される後遺障害が決まります。


2 麻痺の種類
 麻痺には、四肢麻痺、片麻痺、単麻痺、対麻痺の4種類があります。四肢麻痺とは、両方の上肢と下肢が麻痺することです。片麻痺とは、片方の上肢と下肢が麻痺することです。単麻痺とは、上肢または下肢の一肢が麻痺することです。対麻痺とは、両方の上肢または両方の下肢が麻痺することです。


3 麻痺の程度
 麻痺の程度については、高度、中程度、軽度の3つに分けられます。

 高度の麻痺とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢または下肢の基本動作(上肢においては物を持ち上げて移動させること、下肢においては歩行や立位をとること)ができない程度の麻痺をいいます。

 中程度の麻痺とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢又は下肢の基本運動にかなりの制限があるものをいいます。

 軽度の麻痺とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性および速度が相当程度失われているものをいいます。

 このように、麻痺の原因、種類、程度には様々な種類があり、認定される後遺障害等級も様々あります。後遺障害等級によって賠償金は大きく変わるため、麻痺による後遺障害については、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。


交通事故での民事裁判について②

1 民事裁判の進行方法

民事裁判を始めるには、まず「訴状」という書類を作成し、裁判所に提出する必要があります。提出後、約1ヶ月で第一回目の口頭弁論が開催されます。この期間に加害者側からは反論の書面が提出されます。その後、双方が準備書面や証拠を提出し、和解案が示されることがあります。和解案に合意すれば裁判は終了しますが、一方が応じない場合は尋問などを経て、最終的に判決が下されます。

2 裁判にかかる費用と期間

民事裁判には、収入印紙代、郵券代、謄写料などの費用が発生します。収入印紙代は請求金額により異なり、郵券代は裁判所が郵送物を送る際に必要です。訴訟解決までには最短で6ヶ月から1年、複雑な場合は数年かかることもあります。

3 和解について

準備書面による主張や証拠の提出が尽くされた後は、裁判所から和解案が示されることが多いです。この和解案は、両当事者の主張、証拠を踏まえて提示されるため、判決に近い内容になることが多いです。和解案に応じない場合、判決は和解案に近い内容になる可能性が高いため、多くの裁判が和解で終了します。

4 弁護士に相談

弁護士に依頼せず、個人で裁判を進めることは極めて困難です。裁判の途中で弁護士に依頼しようとしても、軌道修正することは難しいです。そのため、裁判を希望するのであれば、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

交通事故での民事裁判について①

1 示談交渉が決裂した際の解決策

交通事故に遭ったときには、多くの場合、被害者は加害者の保険会社と示談を目指します。しかし、賠償金額を巡って意見が合わず、示談交渉が決裂することもあります。このような状況では、被害者は加害者に対して民事裁判を起こすことを選択できます。

裁判を起こすメリットは主に2つあります。

まず、示談交渉がうまくいかなくても、裁判所が判決を下して、賠償金額を定めます。裁判所の判決が出ると、通常は加害者側の保険会社が判決に従い、賠償金を支払うことになるため、紛争が解決となります。

次に、遅延損害金と弁護士費用の獲得が可能です。加害者は、事故から賠償金支払いまで、年3%の遅延損害金を支払う義務があります(令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は5%)。また、被害者が弁護士に依頼した場合、その費用の一部も負担する義務があります。示談交渉ではこれらの費用を加害者側が支払うことは少ないため、裁判を通じてこれらを獲得する道が開けます。

2 民事裁判以外の選択肢

加害者側の保険会社との交渉が決裂した場合、民事裁判を起こす以外にも、紛争処理センターへの申し立て、民事調停といった選択肢があります。

民事調停は、裁判所で話し合う手続きなので、金額の合意ができなければ、結局は調停不成立となってしまいます。

紛争処理センターに申し立てる場合、最終的には審査会が金額を決め、その判断に保険会社は従わなくてはならないため、民事調停よりも強制力があります。

過失割合について②

1 過失割合の重要性とその影響

過失割合は、ご自身が受け取る賠償金に大きく影響します。例えば、過失割合が1:9、ご自身の車両修理費50万円、相手方車両修理費30万円の場合、ご自身が受け取る車両修理費は45万円(50万円×0.9)、相手方に支払う車両修理費は3万円(30万円×0.1)となります。

さらに、過失割合は物損だけでなく、人損にも大きく影響します。治療費や慰謝料などの総損害額から、過失割合に応じた金額が算出されます。例えば、過失割合2:8、治療費60万円、人損の総損害額が200万円、既に相手方保険会社が治療費60万円を病院に支払っている場合、実際に受け取れる賠償金は100万円となります(200万円×0.8=160万円、160万円ー60万円)。

2 過失割合に納得がいかない場合の対応策

相手方保険会社の提案した過失割合に納得できない場合、証拠収集が重要になります。実況見分調書、目撃者の証言、ドライブレコーダーの映像などが有効です。しかし、これらの証拠をご自身で入手することは大変ですし、これらをどう活用するかは専門知識が必要です。このような状況では、弁護士などの専門家に相談することも一つの手です。

過失割合について①

1 交通事故における過失割合の決め方

交通事故に巻き込まれた際、相手方保険会社から「過失割合は3:7です」といった説明を受け、自分にもこんなに過失があるのかと戸惑うことがあるかもしれません。

過失割合とは、事故の責任をどのように分担するかを示す割合です。過失割合は、示談交渉の段階では話し合いで決定されます。両者が任意保険に加入している場合は、各々の保険会社がこの交渉を行います。もし話し合いで決まらない場合、最終的には、訴訟上で裁判所が過失割合を定めます。

過失割合を決定する際には、事故の種類に応じて類型的に判断されます。例えば、「別冊判例タイムズ第38号」には様々な事故状況図が掲載されており、これらを参考に基本的な過失割合が設定されます。さらに、具体的な事情(例:ウインカーを出さなかった、明らかな過失があった等)に応じて、この基本割合を修正します。たとえば、ウインカーなしで進路変更した車は、その過失が増加し、最終的な過失割合が変わります。

2 弁護士などの専門家への相談

保険会社から過失割合を言われたとしても、必ずしもその割合で示談しなければいけないわけではありません。過失割合に納得がいかなければ、弁護士などの専門家に見解を聞いてみることも一つの方法です。

交通事故に多いケガ

①むち打ち
交通事故で一番多いケガがむち打ちです。

交通事故で追突等されることにより、首や腰が前後に振れ、その結果、むちのようにしなることがあります。これが、一般的に「むち打ち」と呼ばれるものです。ただし、むちうちは医学的な診断名ではないため、診断書には「むち打ち」とは書かれません。代わりに、頚椎捻挫、頚部挫傷、腰椎捻挫、腰部挫傷、外傷性頚部症候群など、異なる診断名が使われることが多いです。

むちうちの症状には、首や腰の痛み、頭痛、吐き気、めまい、耳鳴りなどがあります。これらの症状は、事故の数日後に現れることもあります。重度の場合では、上半身の痺れ、全身の疲労感、視力障害などが発生することもあります。

むちうちの治療法には、痛み止め、頚椎カラー装具の着用、電気治療、マッサージ、運動療法などが一般的に用いられます。治療期間は通常、3か月から6か月程度かかるとされています。ただし、事故の重大さや治療内容によっては、6か月以上かかる場合もありますし、逆に1か月で回復する場合もあるため、3か月から6か月という期間はあくまで目安です。

むちうちの原因は目に見えないため、相手方保険会社と治療期間の妥当性で揉めて、弁護士を入れなければ解決しないことも少なからずあります。

②骨折
歩行中やバイクや自転車の事故に巻き込まれた場合、骨折のケガを負うことが比較的よくあります。車同士の衝突事故でも、大きな衝撃があれば肋骨などが骨折することは珍しくありません。

骨折した場合、骨が癒合するまでギプスなどで固定し、その後リハビリ治療が行われることが一般的です。治療期間は、骨折の程度により異なります。軽度の場合、半年以内に回復することが多いです。たとえば、指の骨1本だけを骨折した場合、通常は1から3か月程度で完治します。しかし、骨盤などの大きな骨が複数箇所折れた場合、症状の固定に半年以上かかることもあります。

子どもがむち打ちになった場合

1 2つの注意点

①早く整形外科を受診する
子供の中には、本当は痛いけれども、我慢して「痛くない」と言ってしまう子が少なからずいます。
また、むちうちの場合、事故後しばらくしてから、痛み、痺れなどの症状が現れることがあります。
事故に遭ったら、可能な限り早く整形外科を受診しましょう。

②親が診察に同席する
子供が診察を受けるときは、可能な限り親が同席し、子供の体調の変化を詳しく伝えるよう努めましょう。
子供は痛みや不調をうまく表現できないことがありますし、通院を面倒だと感じて、痛くないと言ってしまうこともあります。
子供が症状を伝えられないと、医師は回復したと誤解し、実際には痛みが残っている状態でも治療を終了させてしまう可能性があります。

2 付添看護費、付添人交通費
子どもの年齢やケガの内容にもよりますが、子どもが一人では通院できない場合、相手方保険会社から、付添看護費と付添人交通費が支払われます。

付添看護費は、裁判所基準では日額3300円、自賠責基準では日額2100円(令和2年4月1日以前に発生した交通事故は、日額2050円)となります。
示談する際には、付添看護費と付添人交通費が含まれているか、確認する必要があります。示談前に弁護士にチェックしてもらうことでも良いと思います。

通院交通費はどこまで認められるのか

1 交通事故の被害者が通院するために掛かる交通費については、原則として、実費が損害として認められます。金額は交通手段によって異なります。

①自家用車での通院
自家用車で通院する場合、合理的な経路での実費相当のガソリン代が1キロあたり15円で認められます。また、駐車場料金などが必要な場合も、具体的な証拠に基づいて請求できます。

②公共交通機関での通院
公共交通機関を利用する場合、その運賃が認められます。通常の場合、領収書等は必要ありませんが、自動車を利用できるのに公共交通機関を利用した場合、証拠が求められることがあります。交通系ICカードなどを利用して利用履歴を残しておくことがおすすめです。

③タクシーでの通院
タクシー代については、自家用車や公共交通機関では通院できない場合に限って、認められます。タクシーの使用は、必要最小限にしておくことが賢明です。

2 定期券を持っていて通院のために途中下車する場合など、金銭的な損害が発生していない場合は請求できません。ただし、通院にあたり経路を一部外れて余分な費用がかかっている場合にはその部分に限って請求可能です。


また、遠隔地の病院への通院費用は、必要性がない限り認められません。遠方の病院に通院する場合でも、合理的な理由がない場合は通院交通費として認められません。必要な治療ができる近くの病院で通院できる場合、遠隔地の通院費用は認められません。

通院交通費でお困りの方は、弁護士に相談してみることもお勧めします。

交通事故で裁判すると期間はどれくらい掛かるか

交通事故での通院治療が終わった後、相手方保険会社との示談交渉に入りますが、金額に折り合いがつかなければ、最終的には訴訟提起をすることになります。

事案の内容にもよりますが、訴訟提起すると、解決まで少なくとも半年から1年は掛かります。

訴訟提起すると、通常、被告側は文書送付嘱託という手続きによって、原告が通院していた各医療機関からカルテを取り付ける手続きをします。

文書送付嘱託の申立てをしてからカルテが裁判所に届くまで、通常1、2か月は掛かります。

裁判所にカルテが届いたら、謄写の手続きをして、被告側がカルテの翻訳をします。

その後、被告側がカルテに基づく準備書面を提出することとなります。

何か所も病院に通っていると、カルテを翻訳、分析するだけで相当時間が掛かるため、準備書面の提出まで数か月掛かることもあります。

被告側がカルテに基づく準備書面を提出したら、その後は原告側が反論の準備書面を提出することになります。

このように、準備書面による主張、反論を繰り返すこととなるため、訴訟提起すると、解決までの期間が相当掛かります。

交通事故の案件の大半は示談で終了となりますが、一部、どうしても訴訟提起せざるを得ない案件もあります。

交通事故でトラブルになりそうであれば、早いタイミングで弁護士に相談することをお勧めします。