同乗者の運転者に対する損害賠償請求について
1 はじめに
同乗者が、同乗していた車両の運転手、あるいは衝突してきた他車両の運転手に対する損害賠償請求をする場合、以下のような問題が生じることがあります。
2 好意同乗について
被害者が、運転手の好意により車両に同乗し、その後事故に遭った場合、同乗者の運転手に対する損害賠償請求は制限されるべきではないかとの議論がかつてなされたことがあります。
現在では、運転手の好意による同乗あるいは単に同乗していただけでは、同乗者の運転手に対する賠償請求は制限されませんが、同乗者の行為が事故に影響を及ぼしたり(例:同乗者が運転手に酒類を飲ませた)、運転手に事故発生の危険性があることを知りながら同乗した場合(例:運転手が飲酒をしていることを知っていた)には、賠償額が減額される可能性があるとされています。
3 双方の運転手に過失がある場合
⑴ 同乗者に対する賠償義務
交差点での車両同士の衝突事故のように、同乗者に過失はないが、双方の運転手に過失がある場合には、同乗者は、双方の運転手に対し、損害額全額の請求をすることができます。
これは、双方の運転手の過失がともに原因となった生じた事故であり、双方の運転手共同の不法行為(共同不法行為といいます)であるとされる結果、運転手らが同乗者に対し連帯して賠償義務を負うことになるためです。
ただし、同乗者の取得可能額は、本来の損害額の範囲にとどまります。
例えば、同乗者の損害が100であるのに対し、双方の運転手から100ずつ、合計200を取得することはできず、併せて100を取得できるにとどまります。
⑵ 運転手相互における負担割合
上記の例で、片方の運転手が100全部を同乗者に支払った場合、この運転手は、別の運転手に対し、過失割合に応じた額の支払を求めることができます。
たとえば、A、Bの各運転手の過失割合が50:50で、Aのみが100を支払った場合、AはBに対し50の支払を請求することができます。
これは、同乗者の損害額に対し、運転手は、同乗者に対する関係では、連帯債務者として全部についての責任を負う一方、運転手間では、過失割合に応じた負担を負うとされていることによるものです。
⑶ 被害者側の過失
同乗者と、同人が乗車する車両のA運転手との間に生計を同一とする関係がある場合、上記⑴でお伝えしたのと異なり、同乗者の別車両の運転手Bに対する請求は、A運転手の過失割合に基づき減額されます。
例えば、同乗者の損害が100、A運転手の過失割合が10、B運転手の過失割合が90の場合、同乗者のB運転手に対する請求額は、100ではなく90に制限されます。
これを「被害者側の過失」といいます。
このような取扱がされる理由は、次の2点です。
ア 同乗者とA運転手が生計を同一とすることにより、同乗者にB運転手から100が支払われた場合、本来は同乗者に対して賠償責任を負うはずのA運転手が、同乗者と一緒に利益を得ることになってしまうこと。
イ B運転手が100支払った場合、B運転手はA運転手に、A運転手の過失割合分の負担額である10を請求することができますが、このような取扱は迂遠であること。
4 任意保険での取扱
任意保険では、事故被害者の加害者に対する請求がされた際、加害者に代わって賠償額を支払うことを前提として制度が組み立てられています。
これを前提とした場合、運転手と同乗者がご家族である場合、被害者である同乗者から、加害者でありご家族である運転手に対し賠償請求がされることは、通常はないことから、このような場合、任意保険からの賠償金の支払はしないとされています。
これに対し、自動車賠償責任保険では、任意保険のような制限はなく、同乗者と運転手が夫婦であっても、同保険からの保険金を支払うべきであるとした判例があります。
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